第12話 根が回れば芽が出る
パーティから6日が経過した
返事が来るのは明日か
アルナ教を信仰している領主を調べたら1人しか出てこなかったから一発でわかりました
マルティン・フォン・ヤイルさん
元エイヴァロン領の西にちょびっと隣接してる領土の人らしい
行った事ないし知らん
この6日間アルナ教のあちこちに手紙を書きまくった
おかげで賛同者は結構いる
当然俺が戦争を起こす事なんて知らないので集積所の条件も戸惑いながら飲んでくれた、軍隊もほとんど形骸化しているので軍部の下につく事も了承してくれた
そしてマルティンさんも多分同意してくれるだろうし、エイヴァロンの館にてキャンプファイヤーで友情を深めたあの日から銃に火薬、弾も優先的に生産させてきたから蓄えはある。
さらに言えば兵士の多くに銃の訓練もさせた、とりあえず戦争の準備は出来たと言っても良いだろう。
いや、戦争ではないな、少なくとも最初は一方的な鴨撃ちだ
敵方にも優秀な人間は多いはず、最初にある程度領地をぶん奪らなければ物量で圧し潰される
そんな事は望むはずもない、少なくとも俺は
実戦が始まればポーレット兵器廠が本格始動するし。フィールドテストはいつだと迫られた時は目が血走っていて怖かったが、順調そのものだな。
仕事もあらかた片付いたし、射撃訓練の様子でも見に行くか
ダァン!ダァン!
お、銃声が聞こえて来た、やってるやってるぅ
「やぁ諸君ご苦労、楽にしてくれたまえ、捗っているかね?」
指導した訓練法をしっかりやっておけば銃の腕は上がるし人を殺す抵抗も減るが、あくまでしっかりやっておけばだ
「あぁ、それは」
「目標停止!静止的射撃訓練に移行します!」
「ん゛ー!」
ダァン!ダァン!
「ん゛っ」ドパァン!
小気味良い音だなぁ
「命中!データを集計します!」
お、いいじゃないか
「うむ、兵士の目を見ればわかる。しっかりやっているようだな」
「よし、次の的を連れてこい!失礼致しました。
はい、ほとんど問題はありません、時々、的による脱走や反抗が起きますが実戦に近い模擬訓練として処理しています」
うんうん、最初はむしろ兵士が反抗したりしてきたものだ
「最初は君にも、他の将校にも嫌な役をやらせたな、すまない」
「いえ、お気になさらず!今の生活もそれはそれで皆気に入っております」
「ありがたい限りだよ、本当に助かる」
無論、本心だ、1人で戦争はできない
仲間たちに支えられやっと俺は、戦争できるんだ!
奴隷の中でも特に素質のある例の(48人+補充要員2名)50人の訓練も一応見に行くか、まぁあいつらは心配ないだろうけど
「やぁティトリ君」
「あぁ、すいません散らかってて!」
確かに周りもティトリ君もドロドロだ
「どうだ、君もだが、皆んなの様子は」
「そうですね、問題はありません!
ただ・・・・・・」
ん?なんか問題が?
「僕だけかはわからないんですけど、最近ちょっと、レパートリーが尽きてきてしまって・・・」
「そこは創意工夫だよ、頑張りたまえ。君には期待しているんだ」
その50人には普段の筋力トレーニング、射撃訓練の他に差し出された1人をみんなで話し合って出来るだけ残酷な方法で殺す、という事をひたすらやって貰っている
悪意の英才教育というか洗脳というか・・・
本人が望もうと望むまいと関係なく狂う
そうで無くとも間違い無く感覚は麻痺する
人を殺すのに必要な悪意か理由、それを飛び越えた向こう側のナニカで人を殺せるようになってもらう為の訓練をしている
俺はそのナニカなど決して知りたくないが
特にティトリ君、彼は素晴らしい
初めは気付かなかったが、銃を人に向けて撃ってはいけない理由を死ぬからだと答えた
「向けて撃って」はいけない理由を聞いたのだ
絶対に殺す気でいる事に気付いたのはずっと後
痛いからや死ぬかもしれないから、怪我をするからではない
確実に死ぬから、と言い切ったのだ
後から気付いてゾッとしたと同時に感動した、これは良い拾い物をしたと
「ありがとうございます!期待に添えるよう頑張りますね!」
良い笑顔だ、血塗れでさえなければ
彼、彼女ら50人には特別なポストが用意されている
俺の直属の親衛隊のポジションを。実は名前ももう考えてある
「うむ、君は優秀で更に、努力家だ、必ず道は開ける、これからも頑張ってくれ」
「はい!ありがとうございます!」
爽やかだな、血塗れでさえなければ
親衛隊の隊長は当然ティトリ君、理由はあるのだが、その話しは今でなくてもいいだろう
そろそろ仕事に戻らねば!
走って事務室に戻る
エイヴァロン領の吸収合併で仕事量は増えたけど俺の仕事量ってあんまり変わらないんだよね
各部署に適した人材を配置しておけば後はほぼ全自動、やるべき仕事は方針決定と労いがほとんど、後はたまに起こる問題の責任を被る事ぐらいか
血で指導者を決めるのは愚かだと思っていたが自分がその立場なら悪くないな、血統至上主義者になってしまうかもしれん
あぁ、でも子供がいないからわからんけど、子供が無能だったら追放するだろうなぁ、俺
はぁ〜、仕事仕事・・・
書類にサインするのが本当の仕事の様な気がしてきた
書記局長を名乗ろうかしら フフフ
ナーシャをどうやってイジメようか考えてたらもう夕方だ
自室に戻って練りに練ったナーシャ虐めちゃうゾ計画を実行に移す時が来たのだ
と思っていた、数秒前までは
ドアを開けたらナーシャが裸で待ってる
え、快楽堕ち?
身体は正直だったパターン?
「やけに準備が良いじゃないか、どうした?」
「別に、今は無駄な抵抗だからやめただけ」
ここまで素直だと逆に不気味だ
毒でも塗ったくったか?
それはスパイ映画の見過ぎか
えー・・・こわっ
でもまぁ、据え膳食わぬは男の恥か!!
〜〜〜それはheav以下略
もう朝か
寝ぼけてた割にちゃんとナーシャを隣の部屋に監禁する辺り俺って抜け目ないよな
しかしそんな事はどうでもいい!
今日は返事が来る日!
ソワソワしちゃう。いやいや、返事はわかりきってるんだ、でもソワソワしちゃう
小学校の時ラブレターを出した時の思い出が蘇る
あー、死にたい
「マルティン卿からの使者が到着した様です」
「わかった、すぐに行く」
ふぉー!ふぉー!緊張する!
いよいよ戦争始まっちゃうよぉ〜
「失礼致します、こちらがマルティン卿から預かった私書です」
私書、私書ね。
公書じゃないなら十中八九、承諾だ
「拝見します」
・・・・・・うん
普通に承諾されたわ
政教分離原則がマイノリティのこっちじゃ宗教って強いもんなぁ、当たり前だよなぁ
「承りました、ではこれを」
承諾された時用の返事の手紙を渡す
内容は作戦日時と目標
注意事項と後はお礼とかそういうの
本番当日抜けるのだけは勘弁して欲しいので
「あぁ、それといくらかの兵士と武器を、建設費のお返しとでも思って下さい」
フハハ、悪意がみっちり詰まった私の兵士を貸してやろう
向こうのピュアピュアちゃん達じゃ少々不安だし、喉元に刃を突きつけておけば当日いきなり抜けるとか言えんだろう、更に、まぁ無いとは思うが道中王都の大臣に襲われるかもしれぬ
バレていないとは思うけど心配だ
俺の知らない魔法の力とか出て来たら怖いし
一石多鳥!!
「ありがとうございます、では失礼します」
「こちらこそありがたい、では」
さてさて、戦争が始まるまでは時間がある
最後の準備だ
「ポレえも〜ん!」
「この前から気になっていたのだが、その呼び方は一体なんだ」
「なに、気にするな、フィールドテストの日も近いが調整は進んでいるかね?」
マルティン卿と同じくこちらもドタキャンされたら困る、実戦での不具合は仕方ないにしても職務怠慢で抜けられたら本当に困る
「あぁ、順調だよ。素晴らしい人材の派遣に感謝するよ」
よかったよかった
「なんとなくなんだが、1つ聞いても良いか?」
ふと疑問が湧いた
「こちらも聞きたい事があるし、良いだろう」
意外だな、俺に聞きたい事ってなんだろう
「あぁ、あんたは、兵器そのものが好きなのか?それとも腐った人間を吹き飛ばしてくれるから好きなのか?」
「何を言っている?腐った人間を吹き飛ばしてくれる兵器そのものが好きに決まっているだろう」
いやいや、こっちが何を言っている?と言いたい
「いや、だからさ、例えば兵器が人間を殺す道具じゃなかったら好きになってたかって話し」
「その質問には意味が無いぞ。例えばだ、君がよく連れ回しているあの女性、彼女が性格と顔が違っても愛したか、と言うようなものだぞ、それは」
元から愛してないのは置いとくとして
「それは別人だろう、全然違うじゃないか」
「一緒さ、そのものを愛するというのはそれでも愛するという事だぞ。人はその見た目でその能力があるから愛するんだ、そのものを愛するのは不可能に近いと思う。
だがあえて答えるとするならそれでも興味ぐらい持っていただろうね」
あぁ〜・・・
思い付きで適当な質問するもんじゃねぇな
言われてみれば確かにそんな気がする
「でも興味持つんだな」
「私は哲学も齧ったと言っただろう、兵器と人は似ているんだよ、構造が」
兵器と人は似てないだろ、間違いなく
似てる人はいそうだけど
こいつの目に人はどう映ってるんだ・・・
「わけがわからない、という顔をしているな、説明してやろうか?」
「いや、長くなりそうだからいいや。んで、俺に聞きたい事って?」
趣味とか暇な時何してるのとかかな
想像もつかん
「君は、これから起こそうとしている戦争をどう思っている?」
え〜・・・どうとも思ってないや・・・
「え、楽しみだなー、となワクワクするなーとか・・・」
「それは感情だ、この前教えたばかりじゃないか
君は何を思って行動しているんだ?」
「・・・・・・」
え?嘘でしょちょっとまって俺の思い?
何も思わないぞ・・・えー、なんだろう
「正直、戦争を起こすのに夢中で何も思ってなかった・・・」
そんな深々とため息をつかんといて!
自分でもビックリしてるんだから!
「別に、私には私の目的があるから責めないがね、明確な自分の意思がないと長続きはしないぞ
なんとなくで始めた事は大体なんとなくで終わるからね。考えておいた方が自分の為にもなるし、勧めておくよ」
俺の思い・・・
俺の思いってなんだろう・・・
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