第8話 聖職者と生殖者

城に金を取りに戻って2時間

適当なレストランで昼食も済ませて

ストラ教会本部行きの路面電車に乗っている

レトロ調の車内で1人思考していた

(ご飯、美味しかったなぁ)

ラノベでたまに見る、元いた世界の料理を出したら感動されるというアレ

意味がわかったぞ

俺がこちらの世界の物を食ってもおなじなのだ

見知らぬ材料に調味料、調理法で作られた未知の料理

こっちの世界のだろうが向こうのだろうが

奇想天外な所から美味いものが飛びだす

そういう空気も含めての感動なのだろう

少なくともあのレストランで俺はそう思った

なんかよくわからない生き物をよくわからない調味料で味付けして、見た事ない調理器具を使っていた

当然記憶の中では名前も知っているしどういう生態かまで知っている

しかし、脳に記録されていても言うなれば物心がついてから初めて見るのだ

私とは旧知だが交流のなかった2人を引き合わせた時のような不思議な新鮮さだった

ガッタン、と電車が揺れる

隣のおじさんにぶつかった

「あっ、すいません」

ほとんどオートの癖で謝る

「なぁに、気にしなくて良いぞ」

ニコやかに許してくれた、やはりこちらの世界の住人はちょろ・・・優しい

どうやら目的の駅に着いたらしい

荷物を掴んで駅から出れば30メートルほどの場所に教会がある

つまりほぼ目の前だ

これならばすぐに着く

あれ、あの教会、クッソでかくないか?

歩いても全然近寄ってる気がしない

遠近法のバグ?

グラフィックバグ?

なんだこれ、おいおい、全然教会に着かないけど

と思って頭がイかれたのかと思ってたらシスターが走ってくる

俺は全然近づかなかったのにすごい速さだな

遠近法だとしたらあのシスターは5メートル位になる、と思っていたが俺より小さいぞ・・・?

うん・・・?脳が壊れた・・・?

「あ、あの、すいません!悪い人ですか!?」

「お、おぉう?いやぁ、悪い事をした覚えはないよ?」

なんだこの小娘、礼儀ってもんをしらねぇのか

「そ、そうですが、今なら入れますから、来てください!」

わっけわかんねー・・・

困惑の表情が浮きまくりだよ

「あ、はい」

すぐに教会に着いた

ほんと数十秒で

「大変申し訳ございません、少しお話があるのでこちらへお願いします」

俺より少し年上ぐらいか?お淑やかな空気のお姉さんが話しかけてくる

「は、はぁ、わかりました」

促されるままに着いて行く

聖職者の癖に逆ナンか?背徳感がたまんねぇなおい

「どうぞ、おかけください」

言われるがまま椅子に座る

テーブルを挟んで向こう側に偉いっぽい女性が座る

「この地区の司教を務めさせて頂いております、オリヴィア・スミスと申します」

女性が司教?

いやまぁ、カトリックとは違うのは間違いないけど、そうか、この世界の宗教は全然違うのか

「フィリップ・ド・エルディンです」

「まぁ!貴族の方でしたか」

そうだよ!これだよ!

あのイかれ兵器マニアは名前聞いてもわからなかったからな

これが当然の反応だよ!

「えぇ、まぁ、本題に入ってもよろしいですか?」

俺にとっての本題は魔法の事だが

まずなぜ、こんな裏手に連れ込まれたのかが知りたい

場合よってはムスコを臨戦態勢にせねばならぬ

「それはですね、少し長くなるのですが

はるか昔の文書に記されているだけで発動の確認は私共も初めての事でして、こちらとしても困惑していまして、教会の周囲には強力な結界が張ってある、そうなんです」

なんだと、確認は初めて?

でも他の人は普通に入ってたけど

俺は人間じゃなかった・・・?

「それで、その、結界が弾くものがですね、その

大変言いにくいのですが」

なんだよ、汚物でも弾くってのか?

「心の悪しきモノの立ち入りを阻む、というのが

文献にありまして・・・」

あ〜、それは言いにくいわな

でも入り口で悪い人ですか?って聞かれたし

今更である

「なるほど、なに、入り口で悪い人ですか?と聞かれましたからね、問題はありませんよ」

笑って答える、なるべくいい人に見えるように

っていうか、俺が悪い人認定っていうのは気に入らないぞ

「! ウチの者が失礼致しました」

悪い奴がひっかかる結界、何を基準に悪いなんて言ってんのか知らんが、それは非常に困る

だって俺引っかかってるし

「いえ、大丈夫ですよ。しかし、私は悪しき心を持つ者なのでしょうか・・・?」

悪かろうがしったこっちゃない、こっちは神のお墨付きでい!

「それが、先に起こったエイヴァロン卿との戦闘事件が関わっているのではないか、と思うのですが。何しろ文献しかないもので・・・これまで引っかかる者もいなかったので放置しておりましたし・・・」

まぁそりゃ解く理由も無いしな

だが、なんとか言いくるめられそうだな

切り返すか

「なるほど、基準が人を殺した事がある、という一点のみでしたらそれでも納得はいきますね」

まぁそんな訳は無・・・あり得るのが怖い。

「えぇ、これは早急に調べておきます

お時間を頂いて申し訳ございません

あ、今更ついでによろしいでしょうか」

なんだなんだ?

「悪い人では、ないんですよね?

エイヴァロン卿事件も止むを得ず、と新聞には書いてありましたし」

「えぇ、神の名に誓って」

ニコッとする

前の俺ならともかくイケメンの笑みだ

多少なりとも効果はあるだろう

そして神の名に誓ってるのも本当だ

神の為に、神が望んだ通りにしているのだ

負い目などあるわけもない

「失礼致しました、それで、本日はどのような要件で訪れる予定でしたのですか?」

相手もニコッとする

衝撃がデカすぎて気になってなかったけど

今気付いた、クッッッソかわいいなこの子

子?でいいんだよな?

前の世界では司教って確か35歳以上しかなれないんだよな・・・

いやいや、こっちの世界ではちがうだろう!

大丈夫!大丈夫!

そうだ!世界が違うのだ!大丈夫!

「魔法を勉強したいな、と思って来たんです」

本題を忘れて帰るところだったわ

「まぁ!まだお若いのに素敵なお心がけですね」

若い・・・若いのに・・・?

年そんなに違うようには見えないし・・・

じゃなくて、素敵な心がけ?

回復魔法的なのしか教えてくれないの?

攻撃魔法を推奨するわけもないし

学ぶ姿勢がって事?

「そうですね、今回のお詫びを兼ねて、私が直々にお教えしましょう」

やったぜ、カワイイちゃんねーに教えてもらうなんて最高だ

エロい魔法とか無いかな

服が吹き飛ぶとか

服だけ溶けるとか

服が弾けたりとか

「光栄です、ありがとうございます」

チャンスがあれば口説いてみよう

あー、でも固そうだし無理かな

でもヤりたいし

「お詫びですから、気を使わないで下さい」

天使かよ、いやほんとかわいいな

なんとかして奴隷落ちしてうちで買い取れないかな

いや、この世界じゃ奴隷なんて大した事ないし

家族でも人質に取れたら・・・!!

「ではまず、魔法を使う資質があるかを検査しますが、よろしいですか?」

当然、よろしい。それこそ神のお墨付きだ

「はい、大丈夫ですよ」

神に才能を与えられた男だぞさぞやチート能力なのだろう、残念ながら脳みそはそんな風になってなかったが

神が才能を与えると言ったのだ!!!

「こちらに腕を乗せて、魔力を腕に集中させて下さい」

言われた通りにやる

魔力の集中とかいうわけのわからない事も脳の方が記録している、恐らく出来るはずだ

ほぁ〜ーーー・・・

オリヴィアちゃんが持ってる謎の機械が軽く爆発した

パンッ!って感じ

怪我をする程じゃないだろうが

大袈裟気味に

「大丈夫ですか!?一体何が!?」

ふふふ、完全に心優しい青年だぜ

「いえ、あー、その」

え、なに、才能ゼロって事?

それとも・・・!!

「魔力計測機器が、壊れるほどの魔力、という事です・・・」

さすがだぜぇぇぇ!!神様万歳!!

これで勝つるwwwww

無双ゲーの始まりだぜ!!

「これなら素晴らしいヒーラーになれますよ!!」

はぁ?

ヒーラー?

あっ、えっ?

「は、はい!」

なんとか答え返す

素晴らしい行いってあれ?

この世界には回復魔法しかないの?

「では、魔力の素質が充分だとわかったところで、お勉強の方に参りましょう」

うそやん・・・使えねー・・・

もう勉強なんてしなくていいよ・・・

本来勉強する時間をお喋りに使おうよ・・・

「はい、わかりました」

あーあ!つまんねー!

「最初は難しいかもしれませんが、ルールさえ覚えてしっかり使えば沢山の人が救えますから!

まずは基礎です!

施術者をAとし、被術者をBとしますね

施術者の魔力が10とします

ここは実際には数値化しにくいので注意ですが

被術者の優しさ、思いやりなどの感情が5だとしましょう

するとBは15回復します

と、今のでわかりましたか?」

しかもこれ、俺の魔力だけじゃ無双もできないじゃん・・・

「つまり、回復量は被術者の精神に依存する、と」

くっそ・・・萎える・・・

ん?待てよ?

「被術者に思いやりや優しさが無かったらどうなるんです?所謂悪い人間など相手には」

そうだ、思いやりで回復するなら憎悪では攻撃魔法が発動するのではないか?

「その事例は・・・確認もされていませんし文献にもありませんね・・・今は不明です」

なるほど、だけどこの仮説が正しくてもこの世界の人間って憎悪が湧きにくいし、どっちにしろ使えないけどな!

「しかし、それは今からの勉強で解決します

つまり、思いやりや感謝の薄い方にはどうしたら優しさを持ってもらえるか、それを勉強していきます!」

つまり魔法の勉強は局所的な心理学に近いのか

「被術者、という事は怪我をしているはずですから、そういう方にはまずはゆっくりと・・・・・・

超局所心理学の講義は夜まで続いた

美女の綺麗な声を長時間聞けるのはありがたいが

慣れとは恐ろしいもので、後半はカナリアの囀りにしか聞こえなかった

なんとかわかってるかのように返事をするのがやっとで、疲れ果てていた

だけどまぁ、ずいぶん仲良くはなれたと思う

「あ、熱が入ってしまいました!もうこんな時間、すいません、今日はここまでです!」

やった!やっと終わった!

「そうですね、私もそろそろ帰らないとマズいです」

帰れる、帰れるぞぉ!

久々に学校の気分を思い出した

あまりいい記憶では無いが

「あの、よろしければ明日も来ては頂けませんか?その、あなたの様に優秀な方がヒーラーをやって頂ければ嬉しいので!」

ヒーラーどころか真逆だ

あ、ヒーラーってのは災害だったりがあった地方に行って怪我人や被災者を助ける仕事らしい

一部では文字ってヒーローとも呼ばれているとか

司教は教会から離れるわけにもいかないから災害が起こったらと思うと心配になるそうだ

残念ながら起こるのは災害よりも恐ろしい戦争だがな

「申し訳ない、明日の朝にはここを出て地元に帰る予定なので」

いやー、むしろあなたが来て欲しい

そんで妻になると良い

司教だし無理だと思うけど

「そうですか・・・そうですね、領主ですものね・・・なんだか私達、似てますね

実力は認められているのに自分の土地を守るしかなくて、外には助けに出られない・・・

あ、ごめんなさい失礼ですよね」

お・・・?これは・・・?

いけるんとちゃう・・・?

「遠くに困ってる人がいるのに気付いて人を送るのも充分な手助けです。それが出来るあなたは、立派ですよ

それと、私は領主ですからあなたよりも自由があります、またあなたに会いに来ても良いですか?」

キマった・・・!

完璧だ・・・!

今の俺は完璧に優しいイケメンだ・・・!

「あっ、ありがとうございます・・・!

ぜひ、是非また会いに来てください!」

この鴇色の頬

目尻に留まる涙

くくく・・・堕ちたな・・・

「では、またいずれ、会いに来ますね。それでは!お元気で」

「お元気で!」

パーフェクトだ!俺!!

なーに嘘はついちゃいない

それにちゃんと会いに来るとも!

明日は早起きして帰ろう

とっとと帰って奴隷を相手にこの荒れ狂うムスコを鎮めるのだ

なんとか今でこそ大人しいが

これ以上は・・・ヤツが復活する・・・!

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