第4話

☆画面に男物の小袖を着た奇子の顔。「5月21日 陸上自衛隊豊川駐屯地 AM08:30」とタイトルが入る。


「…なんであたしを撮ってるわけ? いっくん…絶対オカシイわ…」

「俺には、ジャーナリストとしての使命がある。」

「いっくん、私の事なんて全然心配してないでしょ?」

「…ちゃんと心配してるから。心配しないで。」


☆奇子のハイキックが顔面に炸裂したらしくカメラが大きく揺れる。

☆天井が映る。馬乗りになってタコ殴りにする奇子。誰かが羽交い絞めにして引き剝がした。

☆信長たちの姿が映る。


「ああ見えて、なかなかの女子じゃな…」


☆信長、口の端に笑いを浮かべている。


「徳川殿と話して、至急、お前に頼みたいことが出来た…あの見張りが持っていた様な種子島が欲しい。」

「ここにあるのでは足りませんか」

「足らぬ。少なくともあと、千丁は欲しい。なんとかせい。」

「いや、それは…流石に難しゅうございます」

「これでもか」


☆信長、抜いた大刀の切っ先を奇子の胸の谷間に差し込む。


「判りました…探します。」

「用意出来るまで、この女子は預かる…早うせいよ」


☆信長一行、声も出ない奇子を連れて去る。残った秀吉がカメラに近づいて来る。


「金に糸目はつけぬ。御館様はえろう気が短いぞ。」


☆ぼそっと囁いて去る。


「まるでヤクザだな…」



☆スマホのテレビ電話画面。見るからに強面な顔の男。「5月21日 陸上自衛隊豊川駐屯地 AM09:00」とタイトルが入る。


「おう…いっくん、久しぶりやんか。どないしたん。」

「あのぉ…言い値でいいんで、自動小銃1000丁、至急用意してもらえませんか?」

「あぁ?いっくん…熱でもあるんか?冗談全然おもろないで。」

「いや、あのぉ…武智さん、確か信長ファンでしたよね?」

「ちゃうで。」

「…えええっ?」

「ファンちゃう…そんな生易しいもんちゃう。わし、マニア仲間から『信長原理主義者』言われてるで。」

「もし…もしですね。もしも信長公が現代に現れて、『天下布武したいからすぐ武器集めて』って、言われたら、どのくらい用意できます?」

「もしも?…そやな…カラシニコフなら弾付で200、う~250はいけるかな。RPG-7は24ある。RPG-26、29もかき集めたら半ダースぐらいあるかも知れへんな。手榴弾も50や100やったらなんとかなるやろ。そや、防弾チョッキも仰山あるで。チャカはいらへんの?…なんや、話だけでも、こう…わくわくしてきよったな。」

「武智さん、これ見て下さい…これが信長公です」

「ええ!ほんまに?ちょっとイメージちゃうけど…いっくん、これほんまに信長公?」

「ほんまです。」

「いっくんが真顔で嘘つかへんよな…その…タイムストリップしてきはったん?」

「はい。良く判りませんが、本当にタイム・スリップかも知れません。家康公も秀吉公も一緒です…軍勢が3万6千います。」

「ごっつ!そら、下手したらほんまに天下とってまうかも知れへんな。今どこいてるの?」

「豊川駐屯地です。」

「あれ?なんかツイッターとかで流れてたな…事件かクーデター起きたんやないかとか何とか…」

「はい。潜入取材に来て捕虜になりました。家来になれって言われてます」

「ええやんか!羨ましっ!わしも捕虜になろかしら…」

「あのー、先ず兵器集めてもらえますか?奇子が信長公に人質にされてて…集まらないとどんなことになるか…」

「奇子ちゃんか…色っぽいからなあ…今頃、信長公の子種仕込まれとるかも知れへんな…羨まし!」

「武智さん!冗談じゃないんです!一刻を争う話です。本当にお願いします!」

「わかった…いっくんの為や。成功したら信長公に紹介してや…豊川は今、封鎖されとるらしいけど、まあ…わしやから、何とかして行くわ。」

「どのくらい掛かりますか?」

「まあ、今日中には何とか出来るやろ…腐っても武智グループや。岡山の伯父貴に力借りてでも何とか間に合わせるわ。」

「お願いします!武智さんだけが頼りです。」

「いっくん、この貸しはごっついで…ほな後ほどな。」



☆録画された地上波テレビの画面。臨時ニュースが始まる。「5月22日 NHK AM09:25」とタイトルが入る。


「ここで臨時ニュースです。航空自衛隊小牧基地で何らかの戦闘が行われているとの政府発表がありました。詳細は後ほど発表されるとの事です。基地周辺地区に避難命令が出ています。該当地区の方は至急、区域外へ避難をして下さい。該当地区は、小牧市、春日井市、豊山町、瀬戸市、長久手市、尾張旭市、豊田市…(原稿が渡された紙の擦れる音が混じる)只今、政府がこの事態への航空戦力の投入を決定いたしました。該当地区の住民の方は、大至急、区域外へ避難して下さい!」

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