第3話
☆画面が切り替わって「5月21日 陸上自衛隊豊川駐屯地 AM07:15」とタイトルが入る。
☆カメラは信長を映し出している。
「…すみませんが改めてこの御目見得を最初から始めさせて戴きます。辻褄の合わぬ事を申し上げますが何しろこの時代の習わしで御座いますのでご容赦下さいませ。…では、先ず、もう一度お名前をお聞かせ下さいませ。」
☆カメラ、信長の顔をクローズアップ、心持ち目が険しくなるが
「織田の三郎、平の信長じゃ。」
「お生まれはいつでございましょう?」
「天文三年である。」
「それはバテレンの暦で1534年になります。」
「間違いなかろう。フロイスに訊いたことがある。」
「それでは…今は何年の何の月何日だと思って居られますか?」
「天正三年皐月の二十一日…の筈じゃ。」
「南蛮の暦では1575年になります…私の記憶が正しければ武田勝頼との戦いの当日かと思われます。」
「いかにも。家康殿と長篠城の救援に参った。…だが、道中で妖しい霧に巻かれ、道に迷ったものか…いつの間にかここへたどり着いた…ここは、どこじゃ?…お前たちは武田方では無いようじゃが、一体何者だ。」
「ここは豊川と申す土地です…私たちが何者かは…なかなか容易に説明が出来ません…おいおいお話いたしましょう。」
☆信長の目が細くなる。
「信長様、お味方ご軍勢の人数を伺ってもよろしいでしょうか?」
「構わぬ。家康殿の軍勢と合わせて、ざっと3万6千といったところだ」
☆太田が思わず息を漏らすのが聞こえる。
「…信長様、そういったことまで私に教えて下さるのは何故でございましょう?」
「教えた事を漏らされるのが嫌なら、お前をここから帰さねば良い。それだけのことではないか。」
「…はい。」
「お前には色々と働いてもらいたい。ここは手狭だ。この辺りで兵糧を調達し、この近くの城を攻め落としてとりあえず落ち着きたい。その前には、ここら辺りの地図、大名や勢力、使っておる武器など…知りたいことは山ほどある。お前たちは絵の出る板を持っていて、それで何でも調べられるのであろう…居ながらにして百里先の者の声を聴き、声を届けることも出来るそうだな…その力をわれらに役立ててもらいたい。」
「それは…なぜ知っておられるのですか?」
「見張りの兵の耳を削いだ話をいたしたろう…その男が持っておったので秀吉が訊き出したのよ。」
「なるほど…信長様の軍勢は、いとも簡単にこの駐屯地…あのぉ、この陣地を落とされた様に思えますが…ここの兵はさほどに弱かったですか?」
「弱いか強いかはわからん。優れた武器も持ってはおったようだ…だが、夜襲の備えが隙だらけであった。耳を削がれた男などは、女透波の色仕掛けでのこのこ付いて来て捕まった。捕まっても事の次第を呑み込めぬ様子で、へらへら笑うておったそうな…耳を削がれるまではな。その男から、この陣地の事は予め訊き出せたので、後は赤子の手を捻るようなものであった。戦にならぬ前に終わった様な物だ。皆が皆、ただ呆気に取られておったわ。」
「判りました…お力になりましょう。この夜襲は信長様に御武運があったようです。しかし、この相手が本気になれば必ず手強い敵になりましょう。私に考えがございます。ただ、それを披露いたします前に、一つだけお願いがございます。」
「なんじゃ。申してみよ」
「私と共に捕まりました女がいたはずです。その女に逢わせて頂きたい。かないますなら、この先何なりと信長様ために上々の働きをしてお見せいたします。」
☆信長、秀吉を手で招いて小声で命じる。
「今、連れて来させる。しばし待て。」
☆丸裸に剥かれ、ロープで縛られた女=太田の彼女だった蝶野奇子(あやこ)が連れて来られる。太田が思わず呻く。
「…生きてた…太田さん、生きてた…良かった…」
☆奇子の目から幾筋か涙がこぼれた。
「奇子…大丈夫か…レイプされたのか?」
☆奇子、捨て鉢な笑顔を浮かべる。
「…信長様、お願いがございます。この者の縄を解き、何か着させてやって下さいませ。これは、女ながら甚だ賢く役に立つ者でございます。共に力を合わせて信長様のお役に立てるよう命がけで働くこと、ここにお誓い致します。なにとぞ、なにとぞ…お願いいたします!」
☆太田が土下座したのか、カメラが地面に置かれる。
「頭をあげよ。…よう言うた。その言葉、口先だけでは無かろうな?」
「嘘ではございません。決して裏切るような事はございません。なにとぞお聞き届け下さいませ。」
「秀吉…その女に支度させてから連れて戻れ。」
「畏まりました。」
「信長様…有難うございます。」
☆奇子、一瞬、何か言いたそうな表情で太田と眼を合わせながら連れて行かれる。
「よし…わしは徳川殿と話してこよう…未だ何か申す事はあるか?」
「…信長様は、これから、何をなされるのでしょうか?」
「知れたこと…『天下布武』よ」
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