『N』of knight(騎士様)
「メアね、ずっとダイエットしていたの。体を少しでも軽くするために。わたしたちがもっともっと速く飛べるように」
「痩せる必要なんてないくらい細かったはずだ。そんなことをしていたのか」
「必要かどうかはわたしたちが決めることよ。それで、あなたの持ってきたケーキ。あれがきっかけでメアはダイエットをやめたわ。きっと気に入ったのね。それから、メアはあなたのことをたびたび口に出すようになった…… わたし、悔しかったわ。わたしたち、ずっともっと高みに上れるって、スピードの向こうを目指すんだって、ずっと二人でそう言っていたのに」
ぎり、とナイトは端正な顔を歪めた。
「あなたが壊したのよ、わたしたち二人で、それだけでよかったのに!」
ナイトは言い募る。Doomはただただそれを黙って聞いていた。
「わたしはここしかないの。体が重くて、地上に降りたらもう二度と飛べないわ。わたしから飛ぶ理由を奪うあなたが、あなたに目移りしたメアが憎かった! だから、わたし、わたし、後ろにミサイルを発射して、ふたりで押したニトロボタンを殴りつけて、急加速してやったの! もうメアがよそ見なんてしないように!」
激しい剣幕で怒り狂うナイトが叫び終えるのを待ってから、Doomは口を開いた。
「ナイト、あんた、気付いてないのか? 名乗ったとき、ナイトって言ったよな。いや、そう呼ばれていたって言ったほうが適正か」
「そうよ。それが何? ナイトはメアがつけてくれた名前よ」
「通常、船の名前は、船側に名乗らせる。インターフェースか、船そのものだ。俺も、メテオを、『デリシャス・メテオ』をそうやって呼ぶ。だが、あんたの船主は『ナイトロ・ナイトメア』と名乗った。『私がナイトロ・ナイトメアだ』と。ナイトメアもナイトロ・ナイトメアも船の名前だろう。船と自己のパーソナリティを同列に語る人間が、船を蔑ろにしていたとは俺にはとても思えない。それに、」
Doomは静かに言った。その声には、苛立ちと怒りがこもっていた。
「あんたを置いたまま地上には降りられないと言って、ヒドラジンを飲んでまで宇宙で生活していた女だ。信じてやれよ。ほかでもない、あんたの相棒だったんだろう」
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