nuts-chocolate-brownie(おいしいお菓子)
「来てくれたのね!」
鳴らそうと掴んだキャラメル色のドアノッカーは空を切る。夜明けの光に包まれた町の、はずれに建った小さな店。Doomを呼んだのは、妙齢の女性だった。黒い艶やかな髪と透き通るような青い眼。ぷんと香るのは焼き菓子だろうか。彼女はミトンを付けたままの手でDoomを手招き、部屋へと通した。
「父から聞いているわ。会うのはこれが初めてね。私が娘のキャンディです。ああ、座ってちょうだい。良かったら紅茶をどうぞ。ごめんなさいね、積み荷がまだなの。今、丁度冷ましているところで、包装にはもう少し時間がかかりそうだわ。ゆっくりしていってちょうだい」
手を引っ張り、矢継ぎ早に言葉を重ねるキャンディにDoomはたじろぐ。訳の分からないまま座らされた席へは、見る間に茶菓子と紅茶とトーストが提供される。Doomは目の前に次々並べられる甘い匂いのジャムをじっと見た。キャンディはにこりと微笑んだ。
「どうぞ。遠慮なさらないで! 蜂蜜はお好きかしら? 木の実の砂糖煮もおすすめよ」
「ど、どうも……」
ざく、とトーストを口に運ぶ。キャンディはぱたぱたと忙しなく用意をしていく。焼き立てだと言うチョコレートブラウニーが、見る間にパックに詰められ、箱に仕舞われ、リボンがかけられていく。キャンディは長いリボンを切り、顔を上げた。
「お味はお気に召したかしら? もうここにお店を出して何年にもなるの。これをね、食べさせてあげたいって思うんだけど、あの人ったら恥ずかしがって会いに来ないのよ」
こっちから会いに行こうかしらと思ったのだけど、向こうじゃ気圧が違うからうまく焼けないのよね、と言って、キャンディは笑う。可愛らしい包装ががさがさと紙袋に入れられていく。
「はいできた! あとね、良かったらこっち、道中で頂いて。味は保証するわよ」
簡素な包みを手渡し、お菓子屋の若い店主は笑った。Doomは頷き、『確かに』と言った。
「あの人に会ったら、手紙の一つでも寄越すように言ってちょうだい! 待ってるから、って!」
店の窓から手を振るキャンディにDoomは一度だけ振り返り、躊躇いがちに手を振り返した。
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