第7話
トシと由有ちゃん、僕と美智代の四人が白梅町の居酒屋で一同に会したのは、それから二日後だった。夕方六時が待ち合わせ時間だったが、僕と美智代が十分ほど早く店に着くと、店先にすでにトシがいて、「みっちゃんに言われた本を揃えてみたんだけど、これでいいか」と見せてきた。
「完璧。面白いよ、その本」
僕も高校時代に人生に悩んだ。レーゾン・デートルっていうの? そんなのわからないけれど、自分なりに答えを求めて本を読み漁って、結局何もわからなくて、「いつ死んでもいいや」なんて思って「水素な、みっちゃん」になった。このことは誰にも言っていない。でも、美智代という素敵な恋人を得て、その考えも変わってきている。いいじゃない、教条主義や無謬がこの世に戦いを生むのだから。
オンタイムに由有ちゃんがやってきて、真夏の居酒屋に突入した。
最初は、お互いの近況を語り合う。当然僕たちは、アイスクリーム店でのバイトと、その内情と、美智代へのセクハラ事件だ。僕と美智代のダブルで説明すると、由有ちゃんが憤然として「その篠原ってやつ、鴨川に沈める」などと物騒なことを言うので、「まあまあまあ」とチューハイを勧めて安静にさせることにした。由有ちゃんは飲むと静かになることを僕は知っていたからだ。意外なことに僕と美智代がバイトしているアイスクリーム屋にトシと由有ちゃんは来たことがあったらしい。
ほぼ連日仕事していたから、ばったり会う可能性は高かったのに、どうも僕たちの休憩時間に来ていたようだ。
「松沢とみっちゃんが、あの制服着て仕事してたのか。見てみたかったな」
「あさって入ってるから、よかったらどうぞ」
「行ってみるよ。由有、行ける?」
お、トシはついに由有ちゃんを呼び捨てで呼ぶようになったのか。
「ん」
おとなしい感じで由有ちゃんが応えて。あれれ、なんだか、この二人、いい感じ。
トシと由有ちゃんはその後もデートを重ねていたようだ。
「大阪のキタとミナミに連れて行ったよ。由有がどうしても『道頓堀のグリコが見たい』なんていうし」
「由有ちゃん、案外子供っぽいんだね」
ひっかけ橋のところにある江崎グリコの電飾にそんなにひっかかるなんて。僕がそう言ったもんだから、由有ちゃんが「違うよ、子供のころにテレビで見て、本当にあんなのがビルの壁にくっついてるのか、どうしても確認したかったの!」って、由有ちゃんらしい理屈で返事が来た。
なんだか、由有ちゃんは僕と一つベッドで眠ったときよりも、「柔らかい」感じになっていた。子供っぽいというんじゃなくて、年相応の反応というか。以前のような気負った感じはあまりしなくなっていた。
「おととい電話したとき、あんな朝に松沢がみっちゃんちにいたから驚いたよ」
トシがあの話を出してきた。
「さっき言った美智代へのセクハラ事件で、フォローをまかされて、まあ、いろいろあったうえで招待したわけ」
大丈夫、なにも嘘は言っていない。
「最後までしてないのは、なんとなくわかるけど……」
するどいつっこみを由有ちゃんがしてきた。「私が男なら、事件のあと、鴨川あたりに連れていくなあ」
「ぎくっ」
おどけてつい言ったけれど、遅かった。
ほんの数瞬、言葉が止まり、空気が止まった。
「キス、してくれたよ。素敵なのを」
どちらかというと力強い感じで美智代が言った。だから、みんな少し沈黙した。
「三山くん、やるじゃん」
由有ちゃんが言う。まあね、なんて応えて。
「鴨川べりでキスって素敵だもんね。みんな憧れてるし。彼氏いない友達とあのあたり歩いてたら、『うらやましいなー』ってよく言ってる」
俗に「鴨川等間隔の法則」と呼ばれている現象だ。恋人たちが鴨川べりにきれいに等間隔に並ぶ。明るいうちは健全だけど、陽が落ちたあとだと、かなりディープな行為をしているカップルもいるという。僕はそんなの落ち着かないからイヤだけど。
なんだか、自分サイドの情報開示度が高すぎると思って、逆襲に転じることにした。
「おまえらどうなんだよ。俺たちばかり聞いて」
そしたら、トシと由有ちゃんが見つめあっている。目と目で会話中。なんだ?
「私たちは京都じゃなかった」
なんだかセキララな告白を由有ちゃんが始めた。つまりキスしたのか。そうか。堅物だと思ってたトシもやることはやってたのか。しかも、俺たちより早いじゃないか。
「どこで?」
せっかちな美智代が聞く。すると。
「神戸」
「およ?」
意識外の地名が出てきて僕は驚いた。神戸?
「ポートピアランドに行ったの。異人館も行ったけれど。それで、あそこ観覧車あるでしょ?」
神戸ポートピアランド。一九八一年に開かれた地方博覧会の会場に作られた遊園地だ。そこには海岸沿いに大きな観覧車がある。僕が中学生の頃、男友達と一緒に博覧会に行ったから、その観覧車の大きさは覚えている。
「観覧車に乗って……ちょうど夕暮れ時だった。海が金色に輝いてたな」
およそ文学的表現が苦手なトシがそう言うのだから、きっとノーマルな女子なら、陥落するような状況だったろう。
「てっぺんで……キスしたよ」由有ちゃんが言ったら、「素敵~~」って美智代が暴走しかかった。でも確かに。
「トシ」
僕は立ち上がっていた。おもむろに手を差し伸べる。
よくわからないままトシが握手する。
「それ、最強。それ、素晴らしい。それ、百点」
僕なりに賛辞を送ってみた。実際、そう思ったのだ。今度使おう。
「そ、そうか。俺、そういうのよくわからないから」トシが謙遜しながらよくわからないふうに言って。
「無欲の勝利よ」美智代が言っている。確かに、それは素敵なシチュエーションだと思う。
「今度、それパクる」っていうと、「ちょっと! 相手の前でネタばらししないでよお」なんて美智代がふくれてる。
「あ、まさか別のコとじゃないでしょうね!」なんて言うから、「そんなわけないだろ」ってなだめて。おかしいな、まだ人格者イメージは定着していないのだろうか。
「で、そのさきは?」
とりあえず突っ込んでみた。僕と美智代は「お泊りしたけれど、していない」っていうのを知られてるから、なんだかイコールじゃない気がしたからだ。
「まだ。そういうのは、もう少しあとがいいかなあ。しちゃうと、私自身が変わりそうで怖いから」
由有ちゃんがそういう。でも、どうしてセックスを経験すると「変わりそう」だと思うんだろう。単純に疑問に思って聞いてみる。
「うん……まあ、本や雑誌の体験談なんか読んでて」
由有ちゃんにしてはあいまいな根拠だなあと思って「ふうん」と少し納得いかない顔をしていたら、「もう、三山くんにはなんだかお見通しされてるみたいだなあ」って言われてしまった。
「言いたくなければ別にいいけど。由有ちゃん強いからさ。体験したくらいで変わるとは思えなかっただけで」
「私、そんなに強くないよ」
ポツリという。やばい、なんか、スイッチ押しちゃった予感がする。ちらりとトシを見ると、渋い顔をして首を横に振った。
「三山くんと、前に飲んだときに話したでしょ」
「ああ」
やはり、その話になるのか。トシの前ではしたくない。あの日のこと思いだして、申し訳なさがいっぱいになる。美智代に対してもそうだ。
「私自身がどこから来たのか。死んだらどうなるのか。死後の世界は果たしてあるのか、そんなことを考える。あいまいなまま生き続けていくのが、気持ちわるい」
始まってしまった。由有ちゃんにこんなにネガティブというか、ダークな部分があるなんて。その思考というか、思念はより急角度で深化しているように思えた。しかし、この場合、それはいい方向に進んでいるとは思えなかった。
「彼氏も出来て楽しくないの? どうしてそんな暗いこと考えるの?」
「それとこれとは別。ずっと、ずっと考え続けてきたことだから」
そういいながら、深い瞳でじっと見つめられると、回答を促されているように思えた。
「意識とか魂の存在はたぶんあるんだと思うよ。いろんな哲学や宗教でその存在は語られているし。でも、科学的には証明できてない。でも、昔からそう言われているのなら、あると思っていればいいだけじゃない? 突き詰める必要はないよ」
一気に話題全体を根こそぎ終わらせようとして言ってみたんだけど、由有ちゃんは続ける。
「じゃあ、宿った魂はどうなっちゃうのかな」
「生まれ変わりの事例はある。距離的に離れていて一度も行ったことのない町のことをものすごくよく知ってたり、亡くなった人が隠していたものを知っていたりとか。生まれ変わることはあるんじゃないのかな」
「そうなんだ。三山くん詳しいね」
「『ムー』の読者だったからね」
オカルト系雑誌の名前を出したけれど、それに構わず由有ちゃんは「生まれ変わると言っても、人に生まれ変わるかどうかもわからないし……」
「確かに仏教系の説話にはよいことをしていないと生まれ変わっても虫や獣に生まれ変わる、なんて言われてるけれど。でも、人に生まれ変わるのってそんなにいいことなのか、とも思うよ。宗教ってだいたいこの世に生まれてきた人は『修行』のために生まれさせられた、なんて説いてるんだから」
「そうか……なるほどね……」
いかん。俺と由有ちゃんの二人の会話で独占状態になっている。なんとか軽い方向に導かないと。美智代がストローの包み紙で尺取り虫作り始めてるし。トシなんか、メモ取ってるぞ。やめろよ、もう。
「じゃあ、根本的なこと言う。この話は美智代やトシはあまり興味ないから、四人で飲んでるときの話題としては適切じゃない」
はっきりと言った。由有ちゃんが見上げる。
「三山くんが……私のスイッチ押しちゃったんだよ、あの日」
「え」
な、なにを言い出すんだ。なんだ。
「私は……自分が未熟だってわかってる。孤独だった気持ちはトシくんにずいぶん癒してもらって、それはありがたいけれど……。でも、私の『知りたい』っていう気持ちに応えてくれるのは三山くんしかいないってあの日思った」
焦る。トシは「癒してもらってる」と言われて、まだ余裕のある顔だけど、美智代はなんだか複雑な顔をしていた。僕が由有ちゃんと一晩いたあとの翌日、「ひざかっくん」してきたあの日。必死な顔。
「美智代、勘違いしてほしくないの。好き、とは違うの。なんていうかな……魂と魂の対話、みたいなのができる人なの、私にとって」
由有ちゃん、もうやめろ。それって、「好き」と同義語だ。
「いいか、俺たちはまだ未成年だよ。まだ十八、十九のガキんちょなんだ。未熟で当たり前だし、孤独で当たり前なんだよ。それでも小学生のころよりは向上してるだろ? そんなに考える必要なんてないよ。突き詰めて考えたとして、未熟な俺たちが正しい結果にたどり着けると思う?」
もう切って捨てようと思って言った。わずらわしいとさえ思った。
「じゃあ、最後に聞かせて。三山くんは、どうやって、未熟さや孤独から抜け出せたの?」
するどい詰問が来て、どう答えようか考える。考えることは実はないんだけれど、どう伝えるべきなんだろう。でも、小手先では由有ちゃんにはバレると思って、そのまま言った。
「由有ちゃんは俺が抜け出した、なんて言ってるけど、そんなことないよ。俺は今でも自分が未熟だと思ってる。人生のこと考えて、結局わからなくて、無力感に襲われて、それでも死ぬのは面倒だから、だから、せめて気持ちいいことしよう、セックスしまくろうって思って、水素なみっちゃんになろうとして。でも、そんな偽悪趣味も、由有ちゃんに見抜かれた。俺は底が浅いガキんちょだよ。由有ちゃんが考えてるような男じゃない」
「もうやめて」
不意に、冷たい声が聞こえた。美智代だった。
「二人、お似合いだよ? 私には全然わからない、高尚な議論を延々と続けて、高めあってる感じ。好きとかじゃない、なんて言ってるけど……」
「そうよ、別に三山くんがどうこうなんて」
「それって、ウソよ」
座が静まる。
「由有は、みっちゃんが好きなのよ。なんていうのかな、私は難しい表現はできないけれど。すききらい、の次元じゃなくて、もっと深いところで響きあってるんだよ。自分の弱いところをさらけ出せるのは、好きな人じゃないとできないんだから」
美智代はしずしずと説明している。こんな美智代は初めて見る。そして、言っていることはいちいちそのとおりだった。
「違う。私の彼氏はトシくんだもん」そう由有ちゃんは抗弁したけれど、今度はトシが重い口を開く。
「俺がたぶん、この中で一番未熟なんだろうな。いや、無知なんだ。親と一緒に住んでて自立もしていないし。由有の疑問に何一つ答えられない。いや、質問自体の理解ができない体たらくだ……」
トシは視線を落として、グラスをつかんだまま黙ってしまった。
「帰る」
美智代がポシェットから財布を取り出して、五千円札をテーブルに置くと立ち上がった。
「ちょ、美智代。待てよ。別に俺は由有ちゃんのこと何とも思ってないし」
「そうよ、勘違いしないで」
俺と由有ちゃんが立ち上がってそういうと。
「二人して、私の前でいちゃいちゃしないで!」
そう言って、店を飛び出していった。
まるで、台風の目の中のような、嵐の中の空隙。
「三山君、追いかけて」そう言われて、ぼーっとしている自分に気づいた。と、同時に、無責任にそんなことを言う由有ちゃんに腹が立った。
「いいか、平塚。もうこの話を俺の前でするな。自分の人生は自分で調べて切り開け。はっきり言う。俺はお前よりも美智代が大事だ。もう、こんなくだらない話を俺にするな」
最後は叫ぶように行ったから、隣の席の客が黙りこくって俺を見ている始末だ。
「トシ、悪い。あと頼む」
財布から千円札五枚出してテーブルに置くと、店を飛び出した。
どこだ。
どっちへ行った。
北野白梅町駅から帰るのが最も速いはすだから、駅への道を、今出川通りを西へ走る。
案外、美智代はすぐに見つかった。
ふらふらと歩道を歩いていた。
「美智代」声をかける。反応がない。歩き続ける。手をつなぐ。「話を聞け」何も言わない。前だけ見てる。
「おいっ!」
前に立ちはだかって、両肩を両腕で押さえた。
「勘違いするな。俺が好きなのはお前だけだ。平塚にはもうくだらない話はするな、って言っておいた」
「……みっちゃん……なんで、泣いてるの?」
そう言われて。
「え」
指で目じりをさわると濡れている。僕はいつのまにか泣いていた。
「……お前を失いたくない」
西大路今出川、いや北野白梅町の交差点の前で、僕は美智代を抱きしめた。まだ、時刻は夜の八時頃だ。酔客もいるが、普通に歩いている人たちが怪訝そうに僕たちを見ているのはわかった。だけれども。
僕は美智代を失いたくないんだ。
「みっちゃん……」
抱きしめられた胸の中で、美智代がくぐもった声で、ようやく反応してくれた。
「なに?」
そのあとの言葉は。
「わたしのこと、すき?」
ばかだなあ、そんなかんたんなことでないて。でもおれもないてて、ふたりのこころがちゃんとわかりあってなくて、これいじょうなんていっていいかわからなくて。
「好きに決まってるだろ……」
ぎゅうって抱きしめて、二人して銅像になったように立ち尽くした。
「美智代、今日は帰さない」
ベタな台詞だけど、それ以外思いつかなかった。
「……ん」
すぐに空車のタクシーが通りかかって、僕たちは堀川三条の、僕の部屋へ向かった。
部屋は二日前と大して変わっていなかった。もしかしたら、トシの悩み相談で、トシが来るかもしれないな、なんて思って片付けていたからだ。美智代が来る可能性も少しは考えていたけれど、こんな状態で来るとは思っていなかった。
お風呂の追い炊きをつける。夏場だから十分ほどでわくはずだ。昨晩上がったあとで風呂水をきれいにする薬剤を入れておいたから、ほのかな塩素臭がする。
「風呂から上がったら飲みなおそう? ビールあるよ」
「うん」
壁際に背中をくっつけて、体育座りした美智代が小さくなっている。タクシーの中でずっと手を握っていたけど、何も話はしなかった。美智代の隣に同じように座る。
「もう平塚とあんな話しないから。出てくるときに言ったから。『お前より美智代のが大事だ』って」
「そう……由有、どんな顔してた?」
「あ……言い捨てて出てきたから顔、見てないや。俺、だいたいああいう話、嫌いなんだ。生きてく悩みは他人が見ていないところで自分で切り開くべきだと思ってるから」
「みっちゃんが、そんなに人生のこと考えてたなんて知らなかった……だから、あんなに知識があるんだね」
「高校時代にね。でも結局わからない、っていうことだけがわかったから、ナンパに転向したわけ」
「すごい展開だね……」
「美智代、俺は世捨て人みたくなってたけど、そんな俺を救ってくれたのは、美智代だよ」
「本当?」
「ああ、……今、俺は美智代のために生きたいって思う」
そういうと、美智代はころんと頭をくっつけてきた。かすかな音がお風呂が沸いたことを伝えている。
「お先にどうぞ。Tシャツ用意しとく」
「うん」
美智代がバスルームに入ったのを見て、寝室を整えに行った。ブランケットをはいでシーツをはぎとり、新しいのに取り替えた。枕は二日前のままだったのでそのままに。
バスタオル、ハンドタオル、Tシャツとジャージ。この前と同じセット。ドライヤーをよくわかる場所に置いておく。
「今日は帰さない」
部屋の真ん中に立ってもう一度、独り言を言った。それは、つまり美智代を抱く、と言っている。美智代もついてきた。ほんの二日前、「抱く」って宣言している。そういうつもりで美智代も来てる……ってことだよな。心配になってくる。
二日前のとき、生理はもう終わる頃って言っていた。ここに来るまで特に何も言われてないし、そのあたりは大丈夫なんだろう。
美智代がバスルームから出たようだ。リビングに戻って、適当なCDをかけた。
二日前と同じ……と思っていたら。
「美智代……それ……えと……」
Tシャツにジャージ姿と思っていた美智代は、バスタオル一枚を体に巻きつけたかっこうで出てきたのだった。
「このほうがいいの」
「でも」
「これは、私の『覚悟』だから」
そういい切られた。覚悟。たぶん、それは……そういうことだよな。
「ドライヤーだけ借りるね」
「うん」
いつものように風呂に入る。体中念入りに洗う。耳たぶのしわの中や、足の指の間も。
八月初旬だから、夜十時手前の気温でも二十五度くらいはあった。湯冷めはまずしないだろう。髪を乾かしているドライヤーの音は二日前と同じような時間で止まった。
そうだ、ビール飲まなきゃ。
急いで僕は風呂からあがった。
僕もあえて、服を着なかった。腰から下にバスタオルを巻いた姿で出てきた。それを見て、美智代は何か言おうとして、たぶん意図がわかったのだろう、何も言わなかった。
「さて、飲もうか」
冷蔵庫からビールを二つ取り出し、グラスに注いで乾杯した。
「何に乾杯?」
美智代がそう尋ねる。
「これからの、俺と美智代のすべての時間に」
乾杯のあと、ごくごくと飲んで、そのあとキスして。
寝室へ移動したのは十五分後だった。
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