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「お、来たんじゃないか?」

 遠くの方から軽い足取りの大きな足音がドスン、ドスンと聞こえてくる。まるで、刑を執行される前の犯罪者のような顔になってしまう。笑っている真斗と、わらっている鶴子に隕石でも落ちればいいのに。と、思考を巡らせていると扉の前で足音が止まった。

「あ……ま、」

「おはようございます! 柳探偵事務所やなぎたんていじむしょの皆さん!」

 ノックはしない。彼はそういう男だ。外まで聞こえそうなくらいの大声に、一瞬気が遠くなる。太い腕、厚い胸板、まるで日体大生のような日体大卒の梶美夫かじよしお巡査長。心なしか室温が上がったように錯覚させる暑苦しさは健在のようだ。

「梶、人間界では扉を開ける前にノックをするのが習わしなのだが……ゴリラ界の先輩には教わらなかったのかい?」

 鶴子の直接的な皮肉に肯定を示すように真斗が頷く。そんな言葉を吹き飛ばすかのように笑う梶刑事。彼の心臓には毛が生えているのだろう、暗黙のマナーを守っているところは見たことがない。よく巡査長になれたものだ。

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