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「今日はずいぶんと可愛らしいじゃないか。デートか?」

 奥に座る女性——柳鶴子やなぎつるこ——が薄っすらと笑いながら問いかける。この女が見逃すわけがない。やはり、帰ればよかったと後悔する。

「確かに珍しいけど、似合ってるよ」

 そう爽やかに白い歯を見せて笑いかける男性——菊池真斗きくちまさと——。うるさい、と買ってきたペットボトル飲料を投げつける。それを難なくキャッチし、また爽やかに笑う真斗。そのスマートな姿に大きく舌打ちをして、僕はソファに体を沈めた。

「それにしてもたまきのスカート姿は見たことなかったから、驚いたよ」

 そう言って真斗はまじまじと僕——清宮環きよみやたまき——の服装を眺める。白いハイネックに、グレーの上品なハイウエストのスカート。そこから伸びる足は濃い黒のタイツで包まれている。シンプルなコーディネートが、いっそう環の美貌を引き立てる。

「仕事でボロボロになった服しかなかったんだよ……見るんじゃない!」

 本当に嫌だ。自分の体が女性であることを認めざるを得なくなる。だからスカートを履くのは嫌だったんだ。心の中で環は呪詛を唱える。

「なんだ、今日はかじ絡みの案件だから気合いを入れてきたのかと思ったぞ」

 くつくつと楽しそうに笑う鶴子の底意地の悪い顔に、うげぇ。と思わず苦い声を出してしまった。梶と会うとわかれば来なかったのに、と自分の運のなさを嘆く。

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