第6話~記憶から逃げた少女~

 放課後。陽菜を先導に人通りの多い道に面したカフェへと入店し、男女二人ずつ別れて四人がけのボックス席へと座った。

 陽菜の前には和樹が座り、その横に座る真の前には小春が座っている。少しだけ頰を赤らめているのがなんとも腹ただしいが、そんな気持ちは一切表に出すことはない。

「何か飲む?」

 と言う陽菜がメニュー表を広げテーブルの真ん中に置く。

「俺コーラ」

「僕は、カフェオレ」

「じゃあ私も!」

「・・・」

「真、何か言いたそうだな」

「・・・別に」

 同じものを小春が頼んだからと言って何か思うことがあるわけじゃない。ただ、メニューも見ないですぐ同じものを頼むという小春の精神を疑っただけである。

 陽菜はそんなことには目もくれず、従業員を一人呼びつけて注文する。そんな姿を見て、真は陽菜を見るのを、今日が初めてではないことを思い出した。

 知り合いだったというわけじゃない。間違いなく今日が初対面だ。

 初めて見たのは、確か入学式から数日たった晴れた日の放課後。学校のことをよく知ろうと探索していた時のことだ。

 人の少ない校舎裏で、二人の女子が屈みこんで何かを探していた。そのうちの一人が、陽菜だった。見たのはそれが最初で、のちにさりげなく情報を得てみれば、真と似たようなこと、すなわち、人助けを好んでやっているという。

 だから、小春のことも助けている。と、いうことだろう。

「ドリンクお待たせしました!」

 女従業員の明るい声により少し前のことを思い出すのは強制的に中断される。

 全員の前にドリンクが渡ったのを確認した陽菜は、自分のアイスコーヒーを舐めるように一口飲み、静かに言った。

「それじゃあ、始めましょうか。まず一つ確認したいんだけど、苗代君は小春の記憶を探す手伝いをしてくれるのよね?」

「えぇ。昨日言った通りですよ」

 いきなり話を振られたことにも動じず、ただ淡々と返す。

「じゃあ聞くわ。苗代君は、小春が本当に記憶喪失だと思う?」

「え?」

 驚いて声を上げたのは、小春だ。真もこの問いかけに少なからず動揺したが、それも一瞬のこと。

「そうですね。信じがたいことではありますけど。岸波さんは、信じてはいないんですか?」

「難しいところね」

「え?」

 またしても小春が声を上げた。

「正直、記憶なんてものは曖昧なもので思い出せないことも当然あるわ。他人が記憶を失っているのかそうじゃないのかは本人の自己申告からでしかわからない。だから、半信半疑だったわ」

「え、そうなの?」

 小春が少しだけ悲しそうに陽菜の方を見た。小春は、陽菜が自分の話を信じていると、そう思っていたのだろう。

「半信半疑だった。過去形よ。苗代君が信じるというのなら間違いないでしょうね」

「えらく信用されていますね、僕」

 悪い気はしないのだけれど、簡単に人を信じるというのもどうかと思う。いや、全然いいんだけどね。その方が物事を進めやすいから。

「だって、苗代君は小春と同じ学校だったんでしょ?なら、わかるんじゃないかしら?」

「まぁ、そうですね」

 ここは曖昧に答えておく。実際、真も断片的な記憶喪失により小春のことをほとんど覚えていない。下手すれば詩音の方が覚えているかもしれない。

「ちなみに、苗代君から見て小春はどんな女の子だったの?」

「え、とですね」

 それを本人の前で言わせるのかよ。と思いながら、実際に覚えていた沖野小春のイメージを口にする。

「容姿端麗は今と変わらず、成績優秀で運動神経抜群」

「今なんて!?」

 小春が興奮気味に何か言ってくるが無視して続ける。

「・・・先生からの信頼も厚く、社交的な性格なのか周りには常に人がいたと思います。正直言って、気持ち悪いくらいの完璧人間でした」

「ねぇ!最初のところをもう一回言って!」

 なぜか興奮した小春は身を乗り出し、その首根っこを陽菜が掴み椅子にちゃんと座らせる。

「小春、一旦落ち着いて」

「だって、真君が私の容姿をほめてくれたんだよ!?落ち着けないよ!えへへ、容姿端麗かぁ」

「・・・訂正しようかな」

 だらしない表情を浮かべた小春は容姿端麗ではなくなってしまった。しかし、そんな小さな呟きに小春は気づいてくれなかった。気づいたのは、静かにコーラを喉に流し込んでいた和樹のみ。

「なんか、思ってたやつと違ったな」

「君が何を想像していたのかは知らないけど、今の沖野小春はこんな人だよ。無類の女好きとしてはどう見る?」

「無類の女好きってやめてくれよ。けど、そうだな。・・・あまり相手にはしたくない」

 小春と陽菜には聞こえないように和樹は耳元でささやいた。無類の女好きがこういうのだ。わかっていたことではあるが、沖野小春はろくな女ではないのだろう。

「小春はこんな状態だけど、話を進めましょうか」

 表情が緩みっぱなしの小春は放置することにし、いかにして記憶を取り戻すことを話しあうことにする。

「とりあえず、小春は記憶を失った当時、通っていた学校で情報収集をしたけれど、大した成果は得られないまま高校に進学した」

「それってもうどうしようもなくないか?」

「和樹はちょっと黙って」

 正論を言ったはずなのに黙らされる和樹。しかし、正論と言うものは時として思考の邪魔になるのだ。黙らせて正解だと思う。

「僕から一つ確認したい。どうして沖野さんは地元から離れた札幌の高校を受験したの?」

「それは、何でだっけ?」

 と、首を傾げる小春。そのころは記憶喪失じゃないだろ。そもそも記憶力がないんじゃないかと軽く心配になる。

「小春って今、寮暮らしよね?その辺も踏まえて本当に覚えてないの?」

 そういえばうちの高校って寮があったな。家が通える距離にあるからすっかり忘れていた。寮に入るのは家から通うのは不可能に近い生徒たち。それが小春もだというのなら、ちゃんとこの高校を受験した理由があるはずだ。そして、それもまた、記憶を戻す手掛かりになるかもしれないと、密かに真は思っていた。

「あー、そうだ。都会に憧れていたんだよね」

「中学校があったところも充分都会だった気がするんだけど」

 確かに札幌は都会だろう。けど、通っていた中学校があるのは函館市。都会と言っても申し分ないところである。既に新幹線も開通し、本州にも近い場所だ。

「そうなんだけど、ほら、札幌って憧れない?」

 しかし、それに賛同する者はいない。

 和樹と陽菜は札幌で生まれ育ったというし、真にとっては事故で両親を失った場所。中学生のころだって札幌と言うところに憧れはなかった。むしろ、静かな田舎の方が憧れていた。

「もしかして、だけどさ。沖野さん、両親と喧嘩でもした?」

「え、何で分かったの!?心が通じ」

「そんな気がしただけだよ」

 調子に乗るなバーカ。本当にそんな気がしただけだ。憧れた場所に行こうとし、両親がそれを反対するというのは、割とよく見ることだ。だから、小春の場合もそうなんじゃないかと思っただけのこと。

 しかし、推測が当たるとこのように返されるのだから、言葉選びももう少し慎重に選んだ方がいい。勘違いが進めば取り返しのつかないことになる。

「両親と、喧嘩?」

 そんなことはつゆ知らず、陽菜は驚いているようだった。両親と喧嘩したということを今初めて知ったようだ。

「そうなんだよ。札幌に行くなら大人になってから行きなさい!ってさ」

「・・・」

 この時、この場にいた小春以外が、ついくだらないと思ってしまった。

「それでも己の好奇心には勝てなかったよ」

「なんで余計なことを・・・」

 ボソッとこぼす。

「え?」

「君の他の同級生たちは、函館の高校に行ったんだよね?」

「そうだね。よっぽど頭のいいひと以外は地元から出るのは面倒だからって」

「君もそうしていればよかったんだ」

 真のその発言にその場の全員がギョッとしていた。

 苗代真は頼みごとをされると必ず引き受けるいい人として名が通っている。そのため、性格までもがいい人なんだと思われてしまっている。

 事実はそうじゃない。人間関係が煩わしいと思うほどに性格は捻じ曲がっている。そのことを和樹は知っていたはずなのだが、今の発言には心底驚いているようだった。

「苗代君は、小春がこっちに来て欲しくなかったって?」

「冷静に考えてみてください。沖野さんが記憶喪失になったのは中学校三年生の時なんでしょ?なら、高校進学を決めた時には既に記憶喪失であったと考えられます。本当に記憶を取り戻したいというのなら、地元に残った方がよっぽど効果がある。そうは思いませんか?」

 真の返答に陽菜は黙った。

 一理あるどころか、本当に記憶を戻すのに有効な手段としてはそっちの方が断然いい。

「だから、沖野さんは両親と喧嘩することにもなったんじゃないんですか?記憶がないのにもかかわらず地元を逃げるように離れる」

「もう、やめて」

 小春の顔が苦しそうに歪んでいた。図星、ということか。それでもなお、真は続ける。

「沖野さん。君、本当は記憶なんて戻したくないんじゃない?」

 沈黙。

 誰も何も言うことはできず、上手いことフォローを入れようとした陽菜さえも、この状況には戸惑っていた。

 真はもちろんのこと、陽菜にも、そして和樹にもそう思ってしまう心当たりがあったのだ。

 昨日のやり取りだ。

 沖野小春という女は、過去の情報を与えた時に、「過去なんて関係ない」と。そう答えたのだ。

「私は、私は・・・」

 一人小春は戸惑う。信頼していた陽菜さえも訝しげな視線で見ていたのだ。ただでさえ回転の遅い脳が、考えることを止めようとしていた。

 思い出したくないなんて事実はない。そう伝えることが、できなかった。

 小春は、自分の気持ちを制御しきれずに行動したことを後悔した。

「小春、どうなの?」

「私は・・・わからない。わからないよ」

 そう言った小春の顔は涙で濡れていた。

「私は、記憶から逃げた。どうして記憶がないのかもわからない。自分のことを他人から聞くなんて変なことだとは思うけど、聞いた話だと、今の私は昔の私とは別人。それが、とても怖くて、怖くて」

 声は震え、涙がとめどなく溢れる。小春の声は言いながらどんどん小さくなり、終いには聞こえなくなってしまった。

 この反応は真にとっても予想外だった。小春の意思は固いものだと勝手に思っていた。メッセージのやり取りではあんなことを言ってこそいたし、疑ったことに違いはないが、「記憶を取り戻したくないんじゃない?」と聞いたのは、小春から本当の気持ちを知ろうとしたがためにした質問だった。

 しかし、その末に得ることが出来たのは「記憶から逃げた」ということだけ。過去の自分と今の自分とのギャップに驚き、恐怖したということだけ。

「じゃあ、どうして急に思い出そうという気になったわけ?」

 誰もが聞きたかった質問を、友人代表として陽菜が問いかける。しかし、その答えも、

「わからない」

 と、こぼすだけだった。

「今は思い出したいの?そうじゃないの?」

「私は、怖い。けど、これが乗り越えなきゃいけない壁だって言うんなら、乗り越えたい」

 か細い声でそう言った小春の目には確固たる意志がこもっていた。その目を見て真はため息をついた。

 その目には少しだけ見覚えがあった。記憶の奥の奥。詳しいことまでは分からないが、決意を胸に秘めた時にする、今の小春と同じ目をしていた人が過去にはいた。

「これでようやく本題に入れるよ」

 手元にあったカフェオレを一口飲み、そう言った。

「君の記憶を取り戻すために何をすべきか。それを話し合おうか」

「けど、出来るの?実際にそんなこと」

 不安そうな表情で陽菜が真の顔を見た。今更何を弱気になっているのだろう。小春の記憶を戻すために真のことを調べたのは他でもない陽菜のはずなのに。

「できるかどうかはわかりませんよ。所詮記憶と言うものは過去の情報です。それを戻すというのはいくつもの手順を踏む必要があるでしょう。けど、僕は、何年かかってでもやりますよ。それが、僕のポリシーですから」

 それを聞いた陽菜は小春にこそっと耳打ちをした。

「思っていたよりもすごい人だね」

 それに小春は賛同する。

「うん。なんか、安心感がある」

 胸が温まるようだった。それと同時に、小春は苦しみも感じていた。理由は不明。好きな人の前だからとか、そう言うのとは何か違う気がするが、真のやる気に満ちた表情はどこかで見たことがあったような気がした。それがどこなのかはわからず、結局気のせいだったということにする。

「じゃあとりあえず、君が記憶喪失になった時のことを話してくれる?」

 そう言われ、今ある最初の記憶を引っ張り出す。

「私は、いつものように家で目を覚ましたの。けど、その時にはもうそこがどこなのか、自分の正体までもわからなかった」

 その時に体を動かすことと大方の物の名前を憶えていたのは本能に近い部分が働いていたからだと思う。

「起きてからは、動くことが出来なかった。ただただ怖くて。それから、その時は誰かわからなかったけど、お母さんが私の様子に気付いて、病院に行った。けど、異常らしい異常は発見されなかった。何か精神的に強い衝撃を受けたんじゃないかって言われたけど、それも、覚えてなかった」

 真がそうであったように事故が原因しているというわけではなさそうだった。何か精神的に来るような大きな衝撃。記憶を失わせるほどのもの。それが何なのか真には想像もつかなかった。

「それから?記憶を思い出そうとはしたんだよね?」

「うん。学校にも通って、同級生からいろいろな話を聞いたよ。いろいろな場所にも行った。けど、思い当たるようなことは何もなかった」

 真が詩音から小春の話を聞いた時のように、引っかかるものが何もなく、そのどれかが引き金となり連鎖的に思い出すこともなかったのか。

「ねぇ、真君」

 名前を呼ばれ反射的に姿勢を正す。小春の目は真っ直ぐ真を射抜いていた。何とも言い知れぬ不安感に襲われながらも視線を合わせて返す。

「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「答えられることならいいよ」

 今まで好きな人を見ていた乙女の視線とはまた違う、真剣な眼差しに心が落ち着かない。

「真君。過去にいたっていう、私の彼氏なの?」

「「は?」」

 幼馴染同士がきれいなハモりを見せる中で、真は表情を変えず、いたって冷静だった。

 いずれそう来るだろうなとは思っていた。

 なにせ、小春はかつての同級生達に聞いているはずなのだ。記憶を思い出すために。覚えていないことを。

 その中には、最近真も知った恋人がいたという情報も当然含まれていたことだろう。中学生にとって恋人がいるというのは大きなステータスなのだから。

「おい真!どういうことだ?彼女いない歴イコール年齢じゃなかったのか?」

「僕も昨日まではそうだと思ってたよ。けど、どうやら実際にそうらしいんだよ」

 そのことを向こうから切り出してくるとは思っていなかった。それこそ、運命だ!とか言ってくると思った。

「これは運命だよ」

 小春は期待を裏切らなかった。が、その声は少しだけ残念そうであり、悲しそうでもあった。

「私が記憶を失って学校を行った前日。私たちは別れていたんだって」

「君の記憶喪失の原因は僕にあると。そう言いたいのかい?」

 そう思う気持ちもわかるが、今はそれに対して言葉を返すことも難しい。そのことを一切覚えていないのだ。

「ねぇ、真君。今の私の本当の気持ちを、ちゃんと知ってほしいの」

 小春は懇願するような目で真のことを見た。またしても真の身に謎の恐怖感を襲う。背筋がゾッとし、鳥肌が立つ。

「記憶を、一緒に取り戻してほしいの。そのために」

「もう一度付き合って欲しいと?」

 こくっと小春は頷き、和樹と陽菜はそっと視線を逸らしていた。

 嫌気がさした。無性に腹が立ちカフェオレを一気に飲み干す。もう一度付き合えだと!?冗談じゃない。寝言は寝て言え。

「告白の返事は君の記憶が戻ってから。そう言ったよね?」

「それじゃあ、遅いんだよ」

「付き合った方が記憶を簡単に戻せそうだから、きっとそうした方がいいから、僕を利用しようとしているんだろ?」

「利用だなんて。そういうわけじゃ」

 小春は真が苛立っていることを感じ取り黙った。

 沈黙。

 カフェ店内に流れるBGMでさえ、ちょうどCDか何かが一周したタイミングだったのか音がなくなり、耳に入るのはわずかな喧騒のみ。

「ねぇ、苗代君。あなたは、本当に小春の彼女だったの?」

 タイミングを見計らい陽菜が真に尋ねる。

「そうだったらしいです」

「らしいって、自分のことでしょ?」

 それはその通りなのだが、この状況で自身の記憶もないことを隠しておくことも出来ないと判断する。

「覚えていないんですよ。僕も事故によって軽い記憶喪失になっちゃいましてね」

「え、苗代君も記憶喪失?」

「本当に軽度のものですよ。沖野さんと違ってほとんどのことを思い出しましたし。今でも思い出せないことはありますが、生活に支障が出るレベルじゃありません」

「でも、小春のことは」

「一切記憶にないです」

 そのことに小春はかなりの衝撃を受けていたようだったが、何も言わず真の顔を見ていた。

「前に言ったよね?本能に近い部分が君のことを拒絶しているって。その理由は、きっとそこにある。僕は君と恋人同士だったという事実はあるようだけれど、その記憶はない。思い出すことも出来ない。ここから導き出される答えは、ろくな思い出がなかったからだ」

 実際、詩音から話を聞いた後で何度か思い出せないか記憶を巡らせたが、一切そんな思い出はなかった。

「だから、君がすべてを思い出した後に告白の返事をしようと思っていたんだよ。きっとその方が、僕を振ってくれると思ってね」

「苗代君って、Mなの?」

 おい。なんてこと言いやがる。

「そんなわけないじゃないですか」

「だって、振られたいんでしょ?」

「そうですけど、今はそんなこといいじゃないですか」

 論点がずれたのを強引に戻し、真はきゅっと表情を引き締める。

「とりあえず、沖野さんの記憶を取り戻すための方法を考えますよ」

 話を聞く。どこかに行く以外で記憶を取り戻す方法。それも、記憶を失った地から遠く離れたところで。

「・・・」

「・・・」

「やっぱり付き合った方が思い出しやすいんじゃない?」

「やめてください。それしか方法がないように思えてくるじゃないですか」

 他にも方法はあるはずなのだ。今までとは違うところから情報を得ることが出来れば、チャンスはある。と、なれば彼氏だったという真の記憶くらいしかないものなのだが。

「真。お前、何か思いついたような顔をしていないか?」

 こんな時だけ妙に勘のいい和樹がそんなことを言ってくる。が、実際にその通りなのだ。しかし、実行にはかなり移しにくい。と、いうか小春と付き合うくらいに実行したくない事だった。

「君のことを知っている人が、この街にはまだいるんだ」

 これは賭けだ。記憶を戻せる確信はない。根拠もない。が、他に方法も思いつかない。今はその唯一の方法に縋るしかなかった。

「その人から、話を聞いてみようか」

 引き攣った笑みを浮かべて真はそう言った*。

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