継続は夢になる! かも?
七分丈パンツが欲しい。雑誌に載っていた白の格子柄。私は前々から目をつけていたアー○ンのセールに意気揚々と向かった。果たして理想のパンツ(しかも税抜きで2290円)を発見。これは買うしかあるまい。その前に試着をば。
「こちらMサイズまでしか在庫が無いんですよ~」
「あ、大丈夫です」
にっこりお返事。店員のお姉さんに試着室へ案内され、スカートを脱ぐ。
……あら。ボタンははまったのにチャックが上がらない。まあいやだ。私ったら190デニールのタイツを穿いたままだったわ。これでは上がらないのも当然ね。私はタイツを下ろしてもう一度パンツに足を通した。ボタンをはめる。チャックは……半分も上がらない。もしかしたらお姉さんたらSを渡したのかしら。もうなんてうっかりさん。そう思いながらサイズを確認。Mだ。
「お客様、いかがですかぁ~?」
カーテン越しにお姉さんに呼びかけられる。まずい。どうしよう。何故Mが入らない。息を吸ってお腹をへこませてみても意地悪なチャックはあがらず私を焦らせた。
「あ、あの。ちょっと、サイズが……えへ、合わないカモ?」
「そんなことありませんよお。お客様細いですもの!」
なんて無責任ないいよう! いや接客のひとつなのだけれども今は心にぐさりとささる! へどもどする私をよそにお姉さんはカーテンを開けた。そして私の下半身をちらりと見てから顔を上げる。目が合う。一瞬の間もいたたまれない。
「こ、今回は、見送ります。他の見させてもらいますネ!」
「あ、はい。はい、そうしてください!」
微妙な空気のままカーテンが閉められる。私はすぐにパンツを脱ぐと(先程からパンツを連呼していて妙な気分。ズボンのことですよ皆サン)お姉さんに手渡して、店の中を見るふりをして出口を目指す。一分一秒もここにはいられない!
とぼとぼと歩いていたら母からメールが来た。近くのユニクロにいるという。合流しようという言葉に了承の返事を送ってから、振り返ってかの店の店頭に視線を向ける。ああ、白の七分丈のパンツ……。
合流した母に先程の悲劇をつまびらかにすると、彼女は人目も気にせずにお腹を抱えて笑った。
「だってあなた太ったもの。特に後ろ。お肉ついててイケてないわ」
がーん。なんて無神経な母親だろう。自分だってベ○マックス体型のくせに! ぷんぷん。しかし事実である。最近なんだかちょっと頬っぺたが重いし、ささやかにお腹が膨らんでるようなとちらちらと思っていたのだ。結局ユニクロでグレーの七分丈パンツを購入して帰路につく。
このままではいけない。私は固く決意し、あの悲劇の日以来、お八つをなくし、夕餉にはご飯ではなく豆腐を食べている。食生活だけではだめだ。私は以前テレビで見た「フィールサイクル」を思い出した。クラブとエアロバイクとフィットネススタジオを融合したという自転車によるダイエット方法である。ノリノリの音楽をききながら立ちこぎしたり、身体をハンドルに寄せたり離したり。あれならオフィスに通いがてら出来るだろうと実践。一日で脱落した。け、結構きついのね。→
こつこつ積み重ねるのが苦手な私。対して粘り強さが凄まじいのが友人のまゆである。この子の絵を見れば一目瞭然だが、丁寧で美しいのだ。緻密な風景の描写に私は完全に惚れている。しかも美女。羨ましいだろうふふん(何故か勝ち誇る私)。そんな彼女は四月から研究の生活から一転して社会人の仲間入りを果たした。さてどうなるのかいなと様子をみていれば、新人研修を「ゆとり矯正施設に通っているみたい」と言わしめるユーモラスを発揮。おお、さすが。
「朝起きて、挨拶ちゃんとして……。あと、お辞儀は3秒、全員の頭が揃うまで練習とかするのよ」
「私の母も研修のたびに挨拶やらされて『ばかっぽーい』と言っていたような」
小さな職場しか知らないくせに知ったかぶる私である。
「今まで研究やってたからそういうのなかったからびっくりしたわ。就活の時はあれだけ個性とかなんとか言っていたのに。あと鍵の閉め方! あれは意味があるのかしら」
確かに面接ではやたら個性を求められる気がする。世間でも。会社には言ったら結局横並び整列させるのに、一体どういう料簡なのだろう。いっそ就活試験の時に全員にお辞儀や右にならえなどの試験なんてものも作ってみれば良いのに。
「意味なんて考えてはいけないのよ。『くく……この私にやり直しをさせるとはな……月夜ばかりと思うなよ』とでも思いながらやればいいわ」
「うん。そのうち(絵の)プロになって辞める、というのが心の支えになっている」
「ええ。人生は『やりたいことやったもん勝ち』と、某教育忍者アニメでは20年以上歌われているのだから」
上が求めることに『何故』などと考えるのは無意味である。お辞儀せよと言われればお辞儀をし、棚卸の社外文書を作れと言われたら作る。目上の人に敬語を使う時、「どうして?」なんて思わないでしょう? そういうこと。それが日本の習慣。たぶん、個人の意見や実力が求められるのはずっと先のことだ。
けれど好きなことを好きなだけ続けるのは自由だ。問題は時間の作り方であるが、まゆは四月も終わらないのにせっせと朝早く起きて絵を描くようにしている。仕事が終わったあとは疲れて何もできなくなるかららしい。『桐島、部活やめるってよ』で有名な朝井リョウ先生も出勤前に小説を書いていると聞いたことがある。うーんすごい。好きな時に好きなものを好きなだけかく、がモットーの私とはココロバエが違う。単に時間の使い方が下手くそなのだが。
努力している友人が傍にいるというのは良い刺激になる。まゆの姿勢は「とりあえず10のエッセイを書こう」とぼんやり思っていた私への良い薬になった。これで六つめ。折り返し地点である。細々とではあるがこのエッセイ、お付き合い願えれば幸いである。
20150407/原稿用紙換算:6枚/2395字
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