頑張り前線異常ナシ?
桜が咲いた。名所と言う名所は人で埋め尽くされているだろう。人酔いする私は今年もブラウン管越しの春にあまんじるつもりである。一度強い覚悟で上野へ行った時、花よりも人を見に行ったような心地になったものだ。それでも、名高いだけあって、人波から外れた時に見上げた桜天井の見事さは息を呑むほどであった。
ああ、ここに二階建ての桟敷席があったなら。御簾越しにおっとりと桜を愛で、眼下の人ごみなど扇の裏で一笑に伏したものを。私は大名か公家の姫君になりきって妄想した。花の散る様を追いかけていくうちに、涼やかな目元の若いお武家さま(もちろん松田翔太くんで再生)を見つける。まあ、なんてイケメン。もしかして、こちらを見ていらっしゃる? 青々とした月代が素敵だわ。はしたないとおもいつつ、思わず御簾の内から身を乗り出す。刹那、折よく老朽化が進んでいた欄干が崩れてしまう。均衡を崩して地面との激突を覚悟する私。悲鳴を上げる女房と乳母。けれど衝撃はいつになっても来ない。はっと顔をあげればお武家さまがこちらを心配そうに見つめている。私を抱きとめてくださるなんて、逞しい方……! しかも周りからわたしの顔が見えないように配慮してくださった。せめてお名をと尋ねるけれど「御免」と風のように駆け去ってしまう。残されたのは彼の羽織……、この印篭は将軍家の?! ――とまあ妄想も満開だったわけだが。現実では淡く雲がかかっているかのような桜を仰ぎつつ屋台で買った焼き鳥や焼きそばをほおばる。うんしっくり。芝生の上で四肢を伸ばせたらなお豪勢である。
先日、母校で催された吹奏楽部の定期演奏会に行った。卒業する三年生を送る会ということで、二部の途中では花束贈呈のサプライズイベント。不覚にも涙ぐんでしまった。涙をこぼしながら抱きしめあう小さな背中に、中学生の私が重なる。中高でパートリーダーや副部長を務めたことがあるので、部活の大変さは身を持って経験済みだ。中学時代、先輩からパートリーダーを譲られた時は荷の重さに身体が震えた。同学年にはあと二人、かなり濃い性格の仲間がいる。しゃちほこばって引き継ぎを終えた私に、T先輩はこう言った。
「おもとの責任感が強すぎる所が心配」
当時は褒められたのかなと思う程度。ますます頑張らなくてはと思った。T先輩はただ微笑んで、楽譜の整理を再開した。この言葉を理解したのは数年後。同時に、T先輩は、本当に私のことを気にかけてくれていたことを知った。「責任感が強い」というのはよく長所として上げられるが、行き過ぎれば短所になる。自分の「塩梅」を知ることが必要だ。
枚挙にいとまがないほど数々の迷言を残してきた私の兄だが、ひとつだけ生きたアドバイスを授けてくれた。学生の皆さん、ほんの少しだけ耳を傾けて頂けたら嬉しい。何も難しいことはない簡単なことだ。曰く「中身のレベルは問題無い。100%は行かなくとも、70%の体裁をつくれ」である。レポートや小論文、一言感想。学校ではさまざまなものを提出する機会が多くあることだろう。提出基準(タイトルや名前、文字数)をクリアしたら見やすくスタイリングし、誤字脱字をなるべく無くす。最後に必ず提出期限の遵守。中身はとんちんかんでも良い。期限を守り、体裁が整ってさえいれば教師は単位を与えてくれる。ついでにうけもよくなるかも? とにかく、七割できてりゃこっちのもんなのだ。
さて、ここからは学生も社会人も関係なく「頑張り屋さん」すべてにあてて綴ろう。四月といえば環境変化はつきもの。新生活に胸躍らせたり、不安を抱えたり様々だと思われる。与えられた課題、仕事を完璧にこなし続けようと気負ってはおられないだろうか? 加えて、人間関係で、何も起こっていないのにも関わらず精神をすりへらし、とにかく空気を悪くしないよう緊張し続けているのでは? これすべて私の経験である。結果、身体を壊した。
体調を崩した際、自信をためることができない私を救ってくれた言葉の数々を上げたい。私の記憶から風化することのないように。また、いま落ち込んでいる方が少しの元気を出して頂けたら嬉しい。
「こなしていくことを階段に例えてみて。一気に最上段には上がれないでしょう。一段がとても大事なんだよ」
「一日の終わりに、自分が出来たことを小分けにして褒めるリストを作ろう」
「調子が悪くなっても落ち込まない。どうやって調子をとりもどしたか焦らずに思い出してみてね」
「いきなり十割は多いから、数か月かけて七割できるようになれば上出来よ」
文字数制限と文章表現の稚拙さにより、ただの言葉の羅列にするだけしか出来ないことが悔やまれてならない。けれどこれらは確かにどん底にいた私を勇気づけてくれた。他にも沢山の人の支えがあって、少しずつだけれど前に踏み出す力を育むことができたのである。この場を借りて感謝の意を表したい。
……なんだか私のエッセイらしからぬ真面目な雰囲気になってしまった。大きな花がさに酔いしれつつ、皆さま、明日からの新生活をおおいに楽しもうではないか。人間は何事も七分咲き程度で丁度イイ。そう肩の力を抜きながら。
2015/03/31/原稿用紙換算:6枚/2104字
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