第十三話 目撃
「……どうだ?」
ディンの読みに従い、先に行かせた男を追って三階層ほど降りた階段の影。息を殺した相棒の声を頭の後ろで聞いたパルムは、視線を彼らに向けたままこくりと小さく頷いた。
「います。真ん中の柱の前に、全員が集まっている様です」
二人がこっそり追いかけてきた精悍な顔つきの男と、遺跡の受付にいた例の男、それからその二人を従える様にして太い柱に向き合っている赤髪の女性。
「……柱の、前?」
階が深くなる程に濃くなっていく暗闇から太陽色の髪を隠したローブの背に、ディンの堅い腕が覆いかぶさってきた。
「んぐ……はい、あの辺りです……ぅっ」
呻き声のパルムがつむじで指すより早く、ディンの視線もその集団を捉える。
――瞬間。
「!?」
頭の上の息遣いが変わったのを感じたパルムは、首を捻るようにして再び赤髪の女性の方を見つめ直した。
そして自然と彼女が柱に向かって伸ばした手元に焦点を合わせた途端、慌てて頭上の相棒を仰ぎ見た。
「!? ……ディンさん、あれは……もしかして……」
彼女の指の間にあったのは、遥か天井からそそぐ淡い光を反射する透明な板と、その中を漂う不思議な立体紋様。
「……まずいな」
見覚えがあった。とても似ていた。ほんの数か月前、パルムシェリーの命を狙った男が持ち去っていった古代兵器『シェーラの矢』に。
「……奴らの仲間か……?」
階段で潜めた息を飲み込む冒険家どもの視界の中で、赤髪の彼女はその美しく光る怪しい板を、微かに震える指先で柱にむかってかざし始めた。
そして、じっと。祈る様な視線で柱と板と天井を見比べていた彼女の横顔にほんの少しだけ不安の色がかげり始めた直後。
――ヴ――
地の底から響く低い音と、遺跡の全てが微かに震える様な気配がして。
――ヴン――
直後、遥か底から天井まで伸びるその柱に幾つもの光の筋が走り始めた。
「わわっ」
「おお……」
真っ直ぐに、あるいは直角に。柱の表面に浮かんだ何本もの線が、まるで追いかけっこをする様に輝き出す。
そしてそして。
「わわわわわっ!」
「おおお?」
二人が隠れていた暗い階段通路の天井にも、ぼうっといくつかの灯りが灯り始め――。
「ディ、ディンさんっ! あれ!」
天井に気を取られていたディンが振り向くと、パルムが指した指の先で、ぽっかりと割れた柱の中へと歩いて行く女達の後ろ姿。
「? 馬鹿っ! 頭っ――」
身を乗り出し過ぎた相棒のフードを引っ張った瞬間、くるりとこちらを振り向いた女の驚いたような目が、左右から閉じる柱の中にはっきりと見えて。
「…………あ……あれ……え、えへへ……」
ボスッ、とディンの胸に背中をぶつけたパルムは、すっかり穴がふさがって元の姿を取り戻した柱と、無言で自分を見下ろしている縦長の瞳を交互に見比べると。
「き、綺麗な方でしたね……」
「だな。向こうも多分、そう思ったぜ」
肩をすくめたディンに鼻の頭を弾かれたパルムは『……えへへ……』と金色の頭を掻いた。
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