♥
一瞬、美魚の瞳に
「ぎッ……!? あああああああぁぁあッッ!!!」
気遣う様子を欠片も見せず、無造作に
「ふ……ふふ。
涙と唾液と吐瀉物で汚れた顔で、美魚は
「その醜くて空っぽの頭はもう要りませんね。後私にはお任せください」
美魚の言葉に従うように、
「さあ、これで良いんですか!? 私も力を手に入れましたよ!!」
「美魚ッ!!」
大振りな
「なんで……」
海斗の足元の水面は、不自然なほど静かで波立たない。遅まきながら、
「海斗!」
「きゃははッ!! 弱い。弱い! 海斗だってダメダメじゃあないですか!!」
狂笑する美魚は完全に壊れた眼をしている。もう彼女自身、何がしたくて何をしているのか理解していないだろう。倒れた海斗を
絶望的な状況の中、ふと何者かの気配を感じ見上げると、落石防止柵のほんの小さな足場に、拘束着の少女がしゃがみ込んでいた。
「キィ? こんなところでなにしてるの?!」
ブーツのつま先だけでバランスを取る彼女は、「てつだってほしい?」と言わんばかりに小首を傾げてみせる。
こんな状況なのに、思わず笑みがこぼれた。同時に、キィの顔を見て思い出したことがある。――いや、忘れようとしていたことか。
「ありがとう。でもいいよ」
首を振ってキィに応える。これはわたしの問題だ。わたしにはだらだらと
「きゃはッ!! きゃははは……!?」
海面に叩き付けられたはずのわたしに、止めを刺すべく向き直った美魚は、両の足で立つわたしの姿に困惑の表情を浮かべた。
海水に触れた瞬間思い出したやり方で、周囲1kmの
腹を見せ浮かぶ魚人たちの姿を見て気付いたのか、美魚が叫ぶ。
「化物め!!
「二度目は無いってば」
指一本動かすまでもなく殺意の波動だけで、美魚だったものは波間にくずおれた。
キィがふわりと波間にのぞく車の屋根に降り立つ。
わたしはその
いちばん古い
まだえら呼吸は覚えていないらしい。海水を吐き出し呼吸を始めるのを見届けたあと、
まだ暖かい胸から心臓を抜き取り、少しだけ力を
入れ替わるように、おむかえの気配が近付いてくる。
「わるいね。もう帰る時間みたい」
巨大な漆黒の
約束をすっぽかす形になったけれど、こんどはきっと楽しめる。
別れぎわに見た、キィの可愛いむくれ顔を思いながら、わたしは眠りに落ちた。
END.2
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884676949
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