考えた結果、保護を願い出た。

 荒事あらごとになるのは目に見えているし、何より拝島伯父はいじまおじの目的はわたしだという話だ。自分からのこのこ出歩いていたら、かえって足手まといになりかねない。


 ユリカは薬で眠っている。かなり深い傷に見えたが、宗也そうやさんは「あとも残らないように治してくれるよ」と請合うけあってくれた。信じて良いんだろうか。


「君も少し眠るといい」


 宗也さんの言葉に甘え、シートに身体を預け目を閉じる。いろいろありすぎて疲れた。睡魔はすぐに襲ってきた。


 夢の中で、虹色の柱が浜辺にそびえ立つのを目にした。

 なぜだか見覚えがある光景だ。

 ああ。綺麗だな……


         §


「人の形をしたとし。彼女のための実験かね?」

「素材はひとに限られているはず。大いなるものの実験結果を享受きょうじゅするのがゾスのものである彼女だって事じゃないですか?」

「あるいは彼女と人とのとし。それを生み出すことが、本当の目的だったのかもしれない」


 話し声が聞こえる。

 難しい単語ばかりで、たぶんわたしには関係ないことだと思う、

 うつろな意識のまま、聞くとはなしに流れることばの群れに耳をかたむける。


「大いなるものは腐る事もなく、海に溶けだしこの星の全ての水に干渉かんしょうしている」

「ダゴンの血筋ちすじや深きものどもどころの話じゃない。それじゃあこの星の全ての生命は、遺伝子レベルであれの影響を受けているってことじゃないか」

「そのうえ現在進行形の話だよ。水と無縁でいられる生物は存在しないからね」

「そもそも神の考えることを知ろうなんて、正気の埒外らちがいの話だがな。あれは神化しんかの実験場自体を手に入れるため、この星そのものになろうとしてるんじゃないかな」


 いつの間にか手術着のようなものに着替えさせられている。

 少し肌寒い。波にでも揺られているのか。

 私の身体はゆっくりと運ばれて行く。


「もう少し眠るといいよ」


 どこか懐かしい、気弱そうな青年の顔が見える。


         §


「先生、貴重なサンプルを何処どこへ運ぶつもりデス? 返答によっチャ処分ものデスヨ?」

「教え子を戦わせて、義妹いもうとを実験のために差出して。これで自分の復讐を終えたつもりなら、僕はあまりに人として壊れている。そうは思わないかい?」

「さア? まともな人間ナンテ、ここじゃ珍しいデスからネ。先生がそうしたいナラ、それもいいと思いマスヨ」

「止めないのかい?」

「先生には借りがアル。ワタシは何も見てマセンよ」


 止まっていた波が動き出す。

 わたしはどこへ運ばれて行くんだろう。

 もの問い顔を青年に向けてみる。


「安心して眠れる場所だよ。ゆっくりお休み」


 ゆりかごを揺らすおかあさんの手を思いながら、私は再び眠りに落ちた。


END.5



https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884676949

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