見~た~な~の人



「見~た~な~!」

「いえ」

「…見~た~な~?」

「いえ」

「…ホントはちょっと見たな?」

「いえ」

「……いやいや、ちょっとくらい見たで」

「いえ」


 そろそろ夜も帳を下ろす頃、田舎道の帰路を急いでいたボクは、何か変な人に絡まれた。


「普通見るでしょ?えっ、何で見ないの逆に聞くけど」

「何の変哲も無く踞っているだけの人間をあなたは気にかけますか?」

「かけるよ。しんどいのかなぁとか、大丈夫なのかなぁとか、思ったりしない?」

「……跨ごうかなって思うくらいですかね」

「新しいタイプのクズだね~」


 ハハッと笑うと、その男はゆっくり立ち上がった。


「某は名前を持っていない。まぁ『見たな』で生きてきたから、見田さんとでも呼んでくれ」

「はぁ、そうですか」

「すごい興味無さそう」


 見田さんと名乗ったこの人物は、幽霊だと宣う割にはあまりに幽霊みが無い幽霊だった。血圧や心拍だけでなく幽霊感も無い。そう、全てが0の男。


「永遠の0…」

「え?何が?」


 おっと、口が滑ってしまった。


「まぁここで出会ったのも何かの縁ですし」

「出会ったのではない!汝が某を見掛けたんだよ!」

「切りますよ」

「ゴメンナサイ」

「……来ます?家。妻も多分暇してると思うんで」

「マジ!?某あれやっちゃうよ!?後方宙返りってやつ!」

「宴会でも呼びましょうか?」


 家に連れていくと、何の特徴も無い見田さんに妻が「あら、あなた珍しく人間を連れてきたのね」と見事に地雷を踏み抜いてしまい、彼は小一時間ほど玄関で踞って泣いていた。お菓子をあげると機嫌を直してくれたので、後方なんちゃらを見た後に少し談笑して、例の如くLINEを交換した。 


「見て。今日ね、見田さんと会って写真撮ってきたんだけど。こんなお洒落ならアパレルショップでも立ち上げた方が絶対儲かるよね」

「あなた本当に人間の友達いないのね」

「張り倒すぞ」

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