ドッペルゲンガー



「…あれっ」

「…あれっ」


 この日、僕は僕に会った。小説家を気取った下手くそな比喩表現とかそんなんじゃなくて、シンプルに。


「……僕ですよね?」

「はい、僕はあなたです。で、あなたも僕です。僕はあなたで、あなたは僕です」

「待って、ややこしくしないで」


 整理しよう。


「ドッペルゲンガーってやつですか?」

「まぁ見た感じそのようですが………しかしおかしな話ですね」

「僕は慣れてますよ」

「いえ、そういうことでなくって」


 僕の話によると、ドッペルゲンガーは自らが偽物という自覚を持っているらしい。それを理解した上で、自分が本物に成り代わるため、その本人を遅いに来るとか。


 が、


「僕は僕を本物だと思ってます」

「僕も僕を本物だと思ってます」


 どうにも埒が明かないようだ。


「っていうかですね」

「どうしたんです?」

「ドッペルゲンガーって、自分が本物になるために、本物の存在を否定するんですよね」

「えぇ、恐らく」

「それで、僕らどっちも本物ですよね」

「えぇ、恐らく」

「別にそれで良くないですか」

「確かに」


 僕が僕なら相手も僕なので、丸く収まってしまった。それが一番ではあるけど。


「……そうだ。僕には超絶美人の妻がいるんですよ」

「奇遇ですね、僕もです」

「………もしかして」


 スマホをパッと見せる。そして、スマホをパッと見せられる。


「「あっ」」


 妻もドッペルゲンガーだった。ちょっとクスッとなったところで、すかさずLINEを交換して、また後日会うことになった。外は他人が腰を抜かすと思うので、我が家でという結論に落ち着いた。


「ねぇ見て見て。これ、僕のドッペルゲンガー的な人」

「ホントにそっくりね。取っ替えても新鮮味が無さそう」

「冗談に聞こえねぇよ」

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