口裂け女



「ねぇ……。私、綺麗?」

「いや、ブサイク」

「これでもか……え?ブサイク?」

「うん、ブッサイク」


 会社からの帰路で突然声を掛けてきたその女の人に、僕はピシャリと言い放った。


「………え?嘘でしょ?私ブサイク?」

「とってもブサイク」

「…いや、いやいやいや!そんな訳無いでしょ!?今はこんなことやってるけど、昔は随分ブイブイいわしたものよ!」

「ブイブイっていつの話してるんですか。それバブルの話でしょ?」

「それはそうだけれど………!」


 何故か有り得なそうな顔をしているが、こちらにとっては何故自分が綺麗と思えるのかが不思議でしょうがない。それも、よりによってこの僕に問うとは。


「……え?っていうか、それ聞いて終わりですか?自分の容姿の判断を他人に任せて、綺麗って言わせて自己満足で終わりですか?」

「違うわよ!?「私、綺麗?」って聞いたら「はい綺麗です」って言われて、このマスク外して「これでもかー!」つってこの裂けた口で驚かして終いだったのに……そこまでが一連の流れなのに、勝手にブサイクの一言で終わらさないでくれる!?」

「でも口裂けてたら結局ブサイクなんだから後で言われようが変わらないじゃないですか」

「身も蓋もないこと言わないでよ!」


 何か必死で、少しかわいそうになってきた。僕は溜め息を吐きながらスマホを取り出す。


「な……何してるの」

「確かにあなたは一般の人から見れば綺麗な方でしょうその口を隠せばの話ですが」

「すかさず悪態を…」

「ですが僕には彼女がいる」


 パッと画面を向け、液晶に映ったその端麗な容姿を口裂け女さんに見せ付ける。


「このとても綺麗な女性は……?」

「僕の妻です!」


 そこからは僕のノロケ話を小一時間ほど聞いてもらい、少し疲れた様子だったが、そこからLINEを交換して別れた。


「ねぇ見て。これ、口裂け女さん」

「あらホントだわ、耳までガッツリ裂けてらっしゃる。旧式の特殊メイクみたいね」

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