きさらぎ駅



 自分では自覚していなかったが、余ほどに疲れていたのか、僕は居眠りをしたまま駅を乗り過ごしていた。


 気が付くと、何だか不気味な場所に。


「何処だろうここ………。きさらぎ駅…?」


 きさらぎ駅って、あの2chで有名なきさらぎ駅のことだろうか?確か静岡県の国鉄に乗らないと行けないとか何とか、そんな話だった気がするけど。


「線路を歩いていくと人がたってるんだっけ?あ、その前に伊佐貫っていうトンネルか」


 そんなことを呟いて、まぁじっとしてても仕方無いから線路に下りようとしたその時。


「おめでと~ございま~す!!あなたはこのきさらぎ駅に降り立った10人目のお客様になります!!!」


 陳腐なクラッカーと共に車掌姿の男が現れた。


「………何すか、10人目って」

「あ、いえね!このきさらぎ駅も、最初は都市伝説だったんですけども、皆さんのご愛好あって少しずつ利用者が増えておりまして!今回あなたが、その利用者の10人目と相成ったわけでございます!!はいぃ!!」

「はぁ……そうですか」

「はい!!そうです!!」

「………で?」

「え?」

「何かこう特典的な………10人目記念!みたいなの無いんですか?」

「あ、こちらからタダで帰れます!」

「えっ、じゃあ僕がここに来た意味は?」

「特に無いですね~」


 色々とおふざけも大概にしてほしいが、この男には全く悪気がないようだった。


「そーですねー……。強いて言うなら、こちらを差し上げるくらいでしょうか」

「どれですか?」


 はいどうぞ、と渡されたそれは、少し赤茶けたボロ紙だった。


「何です?この滅茶苦茶に汚い紙切れは」

「それはこの駅への定期通行券になります!それを改札に通して頂ければ、いつでもこの駅に到着、またはこの駅から出発することが出来ます!」

「へぇ、そりゃあ良い」


 反故にするのも何なので、取り敢えず貰っておくことにした。そしてLINEを交換した。


「ねぇ見て見て。この間、きさらぎ駅ってとこに行ったんだけどさ」

「あら、素敵な車掌さんね。今度は私も連れていってもらおうかしら」

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