都合良く、覚醒しました。パンツを奪うためです

159時間経過。

 いま、携帯している電話の追加機能。6時間ごとにアラームが鳴る。

 小田急線の朝八時のラッシュアワー。

 おれは人混みをかき分けながら、女モノのパンツを穿いた猫を追いかける。

 黒猫の名前は宇喜多秀家君というそうだ。彼女との追いかけっこは二度目である。

 こんなことがもう4日は続いている。理屈はわかっていても、動く動物から、パンツを盗み出すのは難しい。至難の業だ。黒猫の動きは俊敏すぎて、50センチまでなかなか近づけない。右手を伸ばしても、尻に触れようとしてもぴょんと避けてしまう。

 おれはこの繰り返しを三時間は続けている。

 四肢を動かすのは猫の筋肉である。おれはそれを何度も見ている。

 仮定ではあるが、こういう理屈はどうだろう。

 筋肉の動きを読めば、対象の位置を把握できないだろうか?

 その前に自分の筋肉の把握が必須だ。

 おれは幾千回も、自分の筋肉の動きを指で試験をした。主に使っていない筋肉の検索だ。 これがけっこうある。使用頻度の少ない筋肉、99箇所を見つけた。その筋肉を動かす訓練をする。意識的に動かすことができるようになったのは24時間、動かし続けた成果だ。伝わる力のベクトルを何度も試す。特に足の筋肉は念入りにだ。わずか52時間ほどの筋肉の練達により、おれのジャンプ力は飛躍的に向上した。

 わかりやすく言うとバク転ができるようになったのだ。

 筋肉とは結局のところ、バネである。あまり、使っていない筋肉を総動員させ、ムダな動きをすべて、運動に集中させれば、それは絶大な力となる。

 人が少なくなった電車の中で、黒猫は全速力で走るが、おれはそれを追い越す。

 両脚で見つけた使用頻度の低い筋肉は66箇所。それを総動員させれば、猫よりは速く走れる。

 ここまでは容易にできるようになった。猫の前足の筋肉は緊張し、後ろ足で方向を変える。ここからが問題だ!右に飛ぶのか?左に飛ぶのか!まったわからない!

 宇喜多秀家君は狡猾な性格のようで、右に飛ぶと見せかけて、左に飛ぶという芸当をもっている。右後ろ足に迷いが生じるのをおれは確かにみた。左だ!

 イメージはぴたりと、黒猫の後方部分をロックオン!そのイメージが重なるように、宇喜多秀家君は跳ぶ。おれの左小指がパンツのゴム部分にひっかかりを感じたときに、

確信をする。空を飛んだ状態の猫のパンツをズリ下ろすのは容易なことだ。

 やった。はじめて、とったどおおおお。

 周囲の乗客から、ガッツポーズをとっているおれに拍手が巻き起こる。

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