たまにお色気シーンがないとね!

 檜造りの大浴場。175センチのおれが手足を精一杯伸ばしてもまだ1mの余裕があるという広さだ。そうなので湯気がすごい。出口である引き戸が霞んでいる。集中しているおれは湯気の向こう側に引き戸が動いたことに、まったく気がつかなかった。

 あちらさんも一緒なのだろう。簡単なかけ湯をしてから、おそるおそる右足から、湯船に入る。湯で顔を洗う。おれが肌を両手でさわさわする黒髪の少女の存在に気がついたのは、五回目の足を伸ばしたときに、左足指がなにかの突起物のようなボタンに触れたことを感知したときだ。足を沈め、膝を支えにその方向を向く。

 おれと、天上院娘子は視線を合わせた。

「ぴゃああああああああああああああああああ」少女とおれの共通点、全裸だ。

 おっぱいはBだな・・・

 引く手あまたのサウナじゃないんだ。タオルを巻かないのは当然だ。

「どうした!むーちゃん!」

 緑髪の少女がもちろん、全裸で入ってきて、おれを見つける。

 あっちのほうがでかい・・・Cだな・・・運動少女万歳。

「かかか・・・かえでしゃん・・・どういうこと・・・なのー」

「昨日の変質者!きさま・・・どういうトリックをつかって女風呂に!油断した!」

 そうか、あれからまだそんなに時間たってないんだな・・・それとトリックなんてつかってねー、あと、油断してたのはおれであって、おめーじゃねえぞ、訂正しろ。

 しかし、第三者から見れば、悪者はおれであることは疑いがないだろう。

 おれは立ち上がる。おれは風呂場でタオルを腰に巻く習慣はない!

「ぎゃああ!」

 天上院娘子は悲鳴をあげて、湯船に顔を突っ伏してぶくぶくしている。どうした?

「ゆるさんぞおおおおお!むーちゃんになんてものをみせるんだああああ」

 え・・・なんか、みた? みてるのはおたがいさまだろーがああ

 という問屋は下ろさないので、おれは逃げることにする。

 全裸の少女はおれが二回呼吸している間に距離を詰める。

「くしなだ流無刀の構え!」

 たしかに緑髪の少女はぼそっとつぶやき、抜刀術の構えをとった。日本刀は風呂に持ち込み禁止なのだろう。当たり前だ。常識。一般常識だ。覚えておけよ。

 少女の動きは初回は追えなかったのは言っておこう。

 手刀の形をした、右手が見事、おれの腹にヒット!今日はツキノワグマにぶん殴られるわ、ドーベルマンにケツを噛まれるわ、美少女に殴られるわ、散々な日だ。最後、ご褒美?

「浅かったか!」さすがの運動少女でも風呂場での抜刀術の経験は薄いらしい。

 おれは軽く呻きながら、抜刀術の使い手の追跡を避けようと、足を動かす。

 ここでおれは一つの閃きが生まれた。

 キズ一つない、少女の肢体を観察する。腰が動く、足はバランスを取る。

 視線は位置を再確認する。ふたたび、手刀が飛んでくるがかわすことができた。

 もう一度、見ろ、全裸の少女の腰と足の動きを。おっぱいは揺らさんでいい。邪魔だ。

 おれはその閃きのこと関してだけ、笑った。

「わらうなあああああああああああ、あとみつめるなあ、この変質者がああ」

 おれと彼女の共通点は筋肉と骨と目玉だ。 それは猫も犬もアライグマも熊も一緒だろう。視線は常に移動、足の筋肉は常に動き続け、腰はそれを支える。

 おれは全裸の少女の足腰の動きと手と視線の動きの理由を直観で悟り始めた。

 これで次の腰の位置が予測できればなあ・・・

 手を伸ばせる。触れる。それは盗める!

 いったい、この女はなにをみて、逆上しているのかさっぱりわからないが、感謝するぜ!

 妙なおかしみと、おれの位置確認の不手際は石けんをふんづけたことで終わる。

 少女の足踏みの方向とはぜんぜん違う方向に飛んでいくおれ。

 絶妙なバランス感覚というか、奇跡が起こったのか、こういう偶然はたいてい、悪い方向なのだが、開いたままの出口に突っ込みおれは木の板で顔を軽く削ることになる。

 あ、鼻血。次、会ったら、間違いなく斬られるな・・・

 シャツとズボンをひっつかみ、おれは風呂場から脱出成功。まだ、全裸!

 赤ののれんが垂れ下がっている。確かに女と表示されている。

 あのじじい!最初はこんなもんなかったぞ!

 さあて・・・ここの旅館の内部構造などわからんが、適当な部屋に入って、押し入れを勢いよく、開き、その中に突入!もちろんまだ素っ裸だ!

 布団こそはあるが男一人は入るスペースは十分だ。おれは押し入れの襖を閉める。おれはシャツを被り、パンツとズボンを一緒に穿く。そういう仕様だ。

 どういう理由であのJKどもがここにいるかわからんが、しばらくここで息をひそめよう。それからたっぷり三十分たっただろうか。だれかが部屋に入ってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る