第3話 終活


通学鞄にバイトで貯めた1,808,542円と親からの今までのお小遣いで貯めた30,325円、自室の部屋のものを売って作った530円を詰め込んだ。

自室にはもう何もない。

1ヶ月ほど前から外見が変わらない程度に物を持ち出し、一週間前に大掃除と称して捨てた。

そして、決行日に親が仕事に行くのを確認してから室内からすべてを持ち出し、燃やした。

自分の痕跡がなくなるように。生きていた証を消すために。

18年をたったの1ヶ月消すのは不可能だろう。

それでも、僕はできる限り消した。


それから、花屋に立ち寄った。そのあと、公園で2、30分滞在して、隣接する川に鍵を投げた。

家の鍵ともうひとつの鍵を。


そこからはいつものルートを辿る。


ただ、通学定期券は昨日で期限が切れ、残高さえもゼロだ。だから、ポケットから行きの電車の交通費を出してチケットを買った。

制服のスカートのポケットに残るのは学校までのバス代とカッターナイフ。


いつの間にか昼も過ぎていた。


電車に揺られながら読みかけの本を読み、バスに乗り換えて続きを読んだ。

学校の近くのバス停で降りた後、僕は暇を潰した。

────時間だ。

僕がバス停に並ぶと少し遅れて同じ高校の人や知らない人がならび始めた。


授業が終わった。


いつもの時刻のバスに僕は乗る。

読みたかった本を読み終えて、聴きたかった音楽を聴き終えて。

それらの娯楽品をブレザーのポケットにしまう。本は少し飛び出てしまうが僕にとっては定位置だ。

足を車内へと踏み込む。お金は後払いだからもうスカートのポケットの中にお金がなくとも乗車はできる。

中扉から後方の席に移動しながらスカートからカッターナイフを取り出す。

席についた刹那、左手首を思いっきり切りつけた。

痛みを感じて、温かい血が巡るのを感じる。僕は生きていた。

皆が乗降していたが気付くものは誰一人としていない。

二人掛けの席だ。僕の隣にも座る人がいる。僕の右側に座ると本を読み始めた。全くと言っていいほど気づかなかった。


僕は久しぶりに笑ってしまった。


こんなにも面白くて衝撃的で他人に一生忘れさせない死にかたがあるなんて思いもしなかった。左手から流れて下には血溜まりを作った。膝の上に置いた鞄がすべてを隠していた。

僕は眠りに落ちた。深い深い眠りだ。

あのバス停からあのバス停まで約15分に起きた出来事だった。


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