ヤドリギ

いといろ

第1話 序章 ―前篇―

「……ふう」


背中を預ける半ば崩れたコンクリート壁が、火照った体に心地よい。

右腕に装着された鈍い光を放つ鋼の篭手、とでも表現すべきか。

仰々しいその装備―機械仕掛けで"杭"を撃ち込む武器、『撃牙ウチキバ』。


兵器と呼ぶには余りにも単純で無骨なそれを、片手で払いながら彼――

斑鳩イカルガは大きくため息を付いた。


呼吸を整え、改めて周囲を見渡す。

以前は小規模の拠点があったとされる場所だが現在は廃墟のそれだ。

かつては頑丈そうにそびえ、住居として機能していたであろうコンクリートの家屋は崩壊し、窓があったと思しき場所からは瓦解した天井を通して鉛色の空が見える。


その鈍く曇った空を見上げ、彼はもう一つ大きなため息をつく。

天候が崩れる――事前にブリーフィングで共有した通りだ。

……悠長に休んでいる時間は無い。

服に付いた土埃を払うついでにと、片耳に装着されたインカムに手を添えた。


「こちら斑鳩いかるが。現在B-4地点にて待機中……ローレッタ、聞こえるか?」

『はいほー、こちらローレッタちゃん。通信感度良好……今日の木兎ミミズクちゃん達は絶好調だよ、タイチョーどの~』


――相変わらず能天気なヤツだ。


インカムから聞こえたローレッタと呼ばれた少女の緊張感の無い声色に、

斑鳩は苦笑しつつ、小さくため息を付いたが、すぐに表情を引き締め通信を続けた。


「把握してると思うが、先に報告を受けた3体のテイ型タタリギの撃破を終えたところだ。報告数から照らし合わせるとこの区域にあと4体残っているはずだが…今の位置からだと遮蔽物が多い、木兎を1機寄越してくれるか」


斑鳩はローレッタに状況を伝えつつ再び空を見上げると既に、そこには先ほどまで居なかった小型のドローンが、まさしく空に張り付くように上空で待機していた。


作戦行動中に上空からの眼として、さらには各隊員との通信中継等のインフラを担う空中ユニット、"木兎ミミズク"。

これらを数機同時に自らの手足の如く扱い、同時に得た様々な情報を分析する。

ローレッタと呼ばれた彼女――"ヤドリギ"の中では"式梟シキジュ"、通称"フクロウ"と呼ばれ、"タタリギ"との戦闘を優位に運ぶ為の重要な役割を担っていた。


『もちろん把握なのっすー、丁型3体なんてもうオペレートの必要すらないからね!流石我らがタイチョーである!』


おどけた口調ながら鮮やかにタタリギを撃破せしめた彼に、ローレッタは本心から賛辞を贈る。


「そりゃどうも」


斑鳩は軽い口調で相槌を打ちながら、周辺に注意を払う。


『それではオーダー通り、周辺の索敵に向かいまぁーす!』


通信が終わるや否や、同時に木兎は中空を挨拶でもする様に小気味よく旋回し、瞬く間に廃墟の影へと消えて行った。木兎の動きや同時に操れる数、障害物を縫う様に飛び行くその精細な動きからも、梟としての彼女は逸材と呼んで差支えはないのだろう。


――これでもう少しやり取りに緊張感があれば……いや、だからこそか。


斑鳩は任務の度に思うのだが、ああであれ彼女は彼女なりに「キンチョウカン」を以て任務に挑んでいるらしい。実際のところ、木兎の動きから見取れる様にも生半可な働きぶりではないと納得ではあるが。



彼女の間の抜けたその声に一息を付いていた、まさにその時だった。

インカムに突如として緊張感のある声が飛び込んできた。


『イカルガ、こちらギル……現在座標B-2区画にて丙ヘイ型タタリギを発見した』

「こちら斑鳩。ヘイ型……厄介だな。数は?」

『……ここからだと3体確認出来るな』


インカムの向こう、ギルと名乗った男から声を通して強い緊張感が伝わる。


先ほど斑鳩が下した丁型は、主に非武装の民間人が"タタリギ"に寄生された

 そして丙型は、自分達と同じ"ヤドリギ"……つまり武装をし、そして身体的にも強化された人間のであるからだ。寄生後、人間的な知性や理性が失われるとされてはいるが、それでも丁型と丙型との戦力差は単純な身体能力だけを取ってみても比較にはならない程の差がある。


そして何より問題なのは――


『――確認は出来ないが2ヶ月前に行方不明になったと報告が上がっていた小隊連中かもしれねえ』


ギル――彼からの声はこわばっていた。

そう、問題なのは"彷徨う彼ら"とは馴染みの可能性があるのだ。顔見知りかもしれない相手に向けて武器を向ける。なってしまったが最後、する事でしか彼ら、そして自分たちにも安寧はない。

理解と覚悟はしていても、割り切れない部分はある。


「ローレッタ、聞いてるな?」

『はいほー、勿論だよ~。1号ちゃんが近かったから……たった今こちらでも視界に入れたよ』

「その3体、認識票タグ式種しきしゅは確認出来るか?」


斑鳩は先ほど木兎を飛ばしたばかりのローレッタへと通信を投げかける。

彼女は斑鳩とのやりとりの直後に、やはりギルの通信を通じて状況を把握。

即座に木兎の一機をギルの元へと飛ばしていたのだ。


木兎から得た映像に一段と眼、そして意識を凝らしながら彼女は答える。


『ん~……そうだね……認識票タグは確認出来ず……もう少し寄ってもいいけどんも。これ以上近付いたら気付かれちゃうかな。……式種識別、対象……共々各腕部に動作不明瞭の撃牙を確認、3体全て丙型"式狼シキロウ"だね』


 "式狼シキロウ"。

通称"オオカミ"と呼称されるそれは、強靭な肉体と鋭い反射神経、強化された自然治癒力を以て前線で直接、敵と交戦するタイプの言わば近接戦闘に特化した式種の"ヤドリギ"だ。まさに今前線へと展開している斑鳩やギルの様な"ヤドリギ"を指し、そして今確認された"タタリギ"に寄生された3体もまた、同タイプの式種であった。


丁型よりも撃牙を始めとした武器使用の可能性、そして単純ながらその身体能力も相対した場合の脅威度を増長させている。


彼女の報告を受け、斑鳩は身を隠していた瓦礫の壁を伝いながら小走りにギルから報告があった区画へと駆け出しながら答える。


「了解した、これからギルと合流する……気付かれてないなら好都合だな。奇襲を仕掛け一気に撃破しよう。ローレッタはそのまま距離を維持しながら観測を続行、同時に確認されていない残りの1体にも気を払ってくれ」

『はいほー!りょっかーい。んじゃさっきの2号ちゃんは索敵継続しとくね~』

「ああ、すまないが頼む」

『おーけーい!それでは通信一旦終了しまぁーす!』


相変わらず明るく振る舞うローレッタとの通信を終えると、

間髪入れずギルからの通信が斑鳩のインカムを鳴らした。着信音から察するに個人間通信の様だが。


『イカルガ……うちの梟、相変わらずあの緊張感の無さ、全く気が抜けるぜ……』

「……やめとけギル」

『聞こえてるぞぉギルバートくん』

『キ……キサヌキ!?』


「ほらな」と斑鳩の予想通りに間髪入れずに木佐貫きさぬき……ローレッタが通信に割り込んできた。

個人間通信であるのだが、いとも簡単に傍受……いや、それは式梟として皆の通信を預かる彼女ならば難しい事ではないとギルも解かってはいたのだが、木兎を複数機展開し索敵と観測を同時に行いつつ、片手間の様にあっさりとそれをやってのける彼女に、ギルは仲間ながら改めて戦慄を覚えた。


『ローレッタちゃんと呼びなさいと、あれ程言ってるでしょ!さあ復唱!』

『グッ……』


斑鳩は二人の会話に苦笑いしつつ、撃牙の動作確認、装填をはしりながら完了させる。

確かにローレッタの作戦中における部隊内通信時の言葉遣いは他部隊では問題になる得るだろう、だが……。

彼女は意図的に緊張感から遠い態度を取っているのだ。軽口は部隊の緊張感を和ませるための手段の一つ…「タイチョーが締める分、私が緩めるのである」とは彼女談である。


――俺達の部隊に配属された当初を考えると、ずいぶん打ち解けたもんだ。


今では臆面も無く思う様オペレートするなった彼女。

作戦行動中に必要以上の緊張感を纏い、それが原因でしばしば問題を問題を起こすあのギルも、ローレッタとのやり取りで随分と力を抜けるようになった。

それを思えばギルも軽口アレに助けられている……のかもしれない。


そんな事を考えながら、程なくして斑鳩はギルが待機するポイントへと到着する。


「どうだ、連中は」


斑鳩は崩れ落ちた建物の一角に身を隠すギルの背後に静かにその体を滑り込ませた。

ギルはコンクリートの亀裂の隙間から、鋭い目つきで敵を見据えたまま答える。


「今のところ俺たちや木兎に気付いてる様子はねえな……"深度"がまだ浅い連中かもしれねえ……」


彼が言う"深度"とはタタリギに寄生され、侵食が進んだ「時間」を指す。

深度が浅ければ浅い程、身体の支配率――いわばタタリギによる"最適化"が進んでおらず、知覚、知能、そして戦術的脅威度も低い。だが深度が深い個体―寄生され、丙型としてより長い期間が経過すると、総合的な戦闘力は一般的なヤドリギに迫り、または凌駕する個体も現れる。

最も、それほどの丙型はごく稀ではあるが。


「まあ……ここから観るぶんに、深度はそう深くなさそうだけどな。あとは馴染みのある連中じゃない事を祈るばかりだぜ……」


ギルは憂鬱そうに付け加えると斑鳩と同じく右手の撃牙を静かに装填した。


「どうするイカルガ。やるか」

「……そうだな、この距離で気付かれてないなら大した深度でもなさそうだ。正面から一気に行くか」


斑鳩の言葉にギルは静かに頷く。


「ローレッタ、正面から往く。デコイ頼む」

『りょっかい。そんじゃ準備はいい?……カウント3でいつものやつね』

「ああ」


二人の式狼はローレッタとの通信を終えると、全身に力を溜めるよう身構えた。

それを待っていた様にローレッタのカウントが始まる。


『3……2……1……』


0(ゼロ)、のタイミングで上空に待機していた木兎の一機が、推進翼であるその羽根ブレードを索敵時とは打って変わり、けたたましく駆動音を奏でつつ丙型達のその背後へ威嚇する様舞い降り――に気を取られた3体の丙型は振り返り、突然の事態に身構えるがごとく姿勢で一瞬硬直を起こす――。


瞬間、二頭の狼が駆ける。

距離にして30m程。式狼ならではの瞬発力で、ギルを先頭に一瞬でタタリギとの間合いを詰めた。


「ッラァ!!」


奔り込んだ勢いそのままに、ギルは最も手前の丙型に対して滑り込むように足払いを仕掛けた。

凄まじい速度で繰り出されたその脚蹴に、ぱぁんっ、と弾かれるよう一体の丙型が足を掬われ宙を舞う。


刹那、低姿勢となったギルを一足で飛び越しざま、中空に浮いた相手それを力強く地面へと蹴り落とし、その反動で斑鳩は2体目へと身を翻す―


「おおおッ!!」


烈迫の咆哮と共に、こちらに気付き再度振り返りつつあった相手へと、重い衝撃音を響かせ鋭い杭を急所である頸椎めがけて叩き込んだ。その衝撃で糸の切れた人形の様に弾かれ―成す統べなく地面へ崩れ落ちる丙型。その脇に斑鳩は体勢を崩す事なく地面を噛むように着地した。


斑鳩の一撃とほぼ同時にギルは、目前に蹴落とされ地面に叩き付けられた1体目の丙型へ、低い姿勢から一気にその身体を荒々しく反転させ、撃牙を容赦無くその頸椎に叩き込んでいた。地面ごと貫かれた丙型は、びくんっ、と四肢が一瞬の痙攣を見せた後、くたりと全身の力が抜ける落ちる。


「……ゥアアアアアァッ!!」


ようやく襲撃者という事態に反応が追いついた残された1体の丙型が暗い眼まなこを左右に揺らし戦闘態勢に入る。斑鳩とギルは右手に装着された撃牙を装填しなおしつつ最後の1体を挟み込む様に、互いに素早く間合いを取り直した。


残されたその1体は一瞬斑鳩に視線をやったあと、弾かれるようギルへと向かって走り出す。

――来い!ギルは胸の内でそう吠えると、獣じみた動きで迫り来るその丙型に対し、迎え撃つように再び足払いを仕掛けようと体勢を沈める――……その瞬間だった。


「ギッ!」と小さく呼吸を吐いた丙型は、それを読んでいたかの様にギルの前方から一気に文字通り飛び掛かっていた。


「……ッ!?」


脚蹴を放つ為その身を沈めていたギルに、一瞬の動揺…その刹那が硬直を呼ぶ。

普段の彼ならば、その体勢からも十二分に迎撃出来る機転を持つが――その丙型の動きは、読んでいた、先ほど見たといった類のものではないと、彼にはそう思え――


「ギル!」


斑鳩は瞬間反応が遅れたギルを見逃さなかった、が。

察知し、駆け出したものの距離が遠く一足で詰めれる間合いではなかった。あの低い姿勢に上から丙型に叩き伏せられ様ものなら致命傷は免れないだろう。


ッガァン!!


間に合わない!と斑鳩の血の気が引いたその瞬間、突如として鳴り響く耳をつんざく音――。

同時に、まさに今ギルを襲わんとしていた丙型の体が空中で大きく弾かれ、どさり、と地面へ墜ちる。


「……詩絵利しえり!」

『……ったく何を躊躇ちゅうちょしてんのよ、ギル!』


斑鳩はもう一人のヤドリギ―詩絵莉に呼びかけると、苛立ちを隠そうともしない声色で通信が跳ね返ってきた。インカムから聞こえる甲高い声を受けながら、斑鳩とギルの二人は弾かれ飛んだ丙型に目を移す。


すでに動かなくなった、左の肩に大きな銃創――おそらく弾道が体内で逸れたのか。射入口と射出口のそれは並行ではないが、放たれた弾丸は頸椎付近を撃ち貫いている。


大きくため息を付き「すまねえ」と漏らしながら竦めた身を起こすギル。

倒れ動かなくなった丙型に一応注意を払いながら、斑鳩はインカムに声を送りつつギルの方へと小走りに近付く。


「……いい判断だった、詩絵莉」

『……式梟ロールから許可取る前に撃っちゃったケドさ』

『大丈夫大丈夫、シェリーちゃんナイス援……』

『ああっもうロールってば!そういう問題じゃないでしょ!』

「め……面目次第もねえ。すまねえシエ……」


ローレッタと詩絵莉は互いに愛称で呼び合うその間。

ギルの謝罪を今は聞く気はない、と言わんばかりに「あーっ、もーっほんっとに!」と小さい声で遮りながら、装備を持ち上げるガチャガチャという慌ただしい音が矢継ぎ早にインカムを鳴らす。


装備品を上下左右に鳴らしながら走り出した彼女から、再び上擦った声が皆の耳を震わせた。


『もーっ!撃っちゃった!撃っちゃったわよもう知らないからね!!あと1体丙型、発見してないのに撃っちゃったからねッ!?……ロール!木兎で合流地点ランデヴーまで誘導して!ギル!お説教は私が無事だったら、たんまりしてあげるわっ!!』

『はいほーりょっかい!ではでは3号ちゃんで経路案内っ。シェリーちゃん走れ走れ~!』


ギルの通信を一方的に遮り捲し立て様、詩絵莉は一方的に通信を切った。


――彼女は"式隼"。

研ぎ澄まされた感覚力、空間把握能力…それに加えて卓越した視力を持つ、通称"ハヤブサ"と呼ばれるヤドリギの式種を担っている。

部隊中唯一の銃火器を所持し、主に中~長距離からの先制射撃、戦闘時の射撃支援……そして式狼が無力化したタタリギへの決定打とどめを行うのが主な仕事だ。


「……単騎相手にらしくもない……どうした、ギル」


狙撃され事切れたであろう先ほどの丙型に目をやったまま、ギルは呟く。


「……格闘演習でよ。昔よく組手してた奴が居てな…何度かやりあううちに、俺が足を掛けようとする瞬間に反応して、上から抑え込みに来るようになってな……」

「……」


ギルは苦虫を噛み潰したような表情で、考えたくもない可能性を語る。


「斑鳩、ひょっとしたらは……」

「……考えるな、ギル。俺たちはやるべき事をやっているだけだ。俺もお前も、ローレッタも、詩絵莉もだ。人類おれたちを脅かすタタリギ―そこに転がっているのも、ただのさ」

「……ああ、わかってる」

「さあ、合流地点まで移動しよう、彼女が言った通りまだ1体残ってる……ひょっとしたら銃声で詩絵莉が補足されたかもしれない、急ぐぞ」


「そうだな」とギルは再びつぶやき、目を閉じて深いため息を付いた。

斑鳩の言う通り、まだ敵がどこかに潜んでいる状況で式隼シエリに銃撃を許してしまった。式隼は確かに重火器の扱いに長けるが、一般的な丙型が相手だとしても近接戦闘に持ち込まれた際は危険が伴う。


そして何より式隼は、敗北しタタリギ化してしまう事が畏怖されている。


重火器を操る"丙型"へと変貌する事になれば、討伐の際、重火器を操る可能性を孕む厄介極まりない存在と成り得るからだ。他にもを携える可能性を考慮し、式狼が前線を担い、その上で式梟と連携し、周囲の安全を確保した状況で中~遠距離支援に徹している。


式狼の武装が"原始的"とも言える"杭撃ち機"の様な単純な兵装を纏っているのも、タタリギ化してしまった際、少なくとも銃火器による遠距離からの先制攻撃や、一般人も居住する拠点に対する侵攻が行われた際の脅威度をなるべく低いものとする為の措置とされている。


「ローレッタ、残り1体の索敵はどうだ?」

『一応丁寧に索敵してるつもりなんだけど、見つからないんだよねー……』


彼女は「むむむ」と声を上げつつ斑鳩に答える。


『さっき、タイチョーとギルが接敵した3体、行動共にしてたみたいだし……ひょっとしたら斥候部隊の敵数誤認の可能性もあるよー……まあ無い話じゃあないしね』

「だと楽なんだがな……」

『天候も怪しい事だし、あたしは合流地点での設営がてら、待ち伏せを提案するよ』


そう、斑鳩達ヤドリギは今回二つの作戦を目的としていた。


今彼らが作戦行動中である放棄された拠点跡周辺で事前に報告が挙がっていたタタリギの排除―及び、同場所への電波中継局の設営――。


この南東区域は、ここの様なタタリギの脅威に晒され、放棄された拠点施設が点在している。

それが意味するのは、多数の脅威度の高い大小種別様々なタタリギの報告が挙がっている――つまり非常に危険度の高い区域であるという事だ。


今回の作戦で中継局の設営に成功すれば新たに通信可能区域を確保でき、彼らヤドリギによる作戦行動範囲の拡大に繋がる、その足掛かりとなる――。


これは現状タタリギによる汚染、そして侵攻により限られた資源と土地で生き長らえている彼ら人類にとって己が陣地を広げるという点、そして放棄された拠点跡から利用可能な資源を得るという二つの点から、非常に重要な任務の一つだった。


『はぁ、はぁ……こちらはやぶさ……泉妻いずのめより各式へ。現在F-1区画通過中…現時点での会敵は無し、及びその気配は無いわ……』

「了解だ、詩絵莉。こちらも合流地点まであと1区画だ」


若干息を切らした泉妻――、詩絵莉からの通信が入る。

斑鳩の声に、呼吸を整える様にふうぅ、と深く息を吐き、詩絵莉は続けた。


『私もローレッタの意見に賛成するわ。銃声からそれなりに経過してるけど、残りの丙型がスッ飛んで来る様子も無いし……このまま索敵を続けるにも、雨の中は危険も増すわ』

「言えてるな、残り1体に警戒しつつ中継局の設営を急いだ方がよさそう……か」

『それこそ合流した後なら丙型1体くらい、どうとでもなるわ。そうでしょう?』


ギルも納得したように「ああ」と詩絵莉の声に頷いた。


報告に上がった7体中、現時点で6体は撃破。

事前のこの区域への斥候曰く、発見されたタタリギは全て丁~丙型。

実際敵数の誤認報告は、敵が全て丁~丙型……所謂、"小物"の場合、有る事案ではあった。

それ以上の"大型"タタリギの報告も運よくここ数日、この作戦区域となる拠点跡で挙がってはいない。


詩絵莉の言う通り、報告を信用するなら残り一体も丙型……油断さえしなければ全員が合流してしまえば万が一にも遅れを取る事は無いだろう。斑鳩は隊を預かる身として安易な選択はなるべく執りたくないという気持ちはあったが、索敵に集中したローレッタの網にも掛からないようであれば、杞憂の可能性は高いだろう、と結論付けた。


「わかった。ではローレッタ、お前もN33式兵装甲車クルマで合流地点に向かってくれ。ルートは任せる…だがなるべく崩壊した建造物の近くは避ける様にな」

『はいほー!んでは一応保険として木兎1号2号ちゃんを周辺展開しつつ、合流地点ランデヴーに向かいまーす!あ、タイチョーとギルから眼、少し離す事になるから。そっちも十二分に注意してね、オーバーっ』


斑鳩とギルはローレッタの言葉の通り、より警戒を強めつつ。

詩絵莉は万が一の会敵に備え、愛用の銃に新たな弾丸を込めつつ。



4人はそれぞれ通信を終了すると、合流地点へとその足を早めるのだった。

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