ペロペロ
◇2018/3/6(火) 曇り◇
なんか今日は寒さがいつもよりましになっている気がする。まあ三月だしな。僕は久しぶりの暖気に心を軽くしながら、こたつ部の部室の扉を開けた。
「こんちはー」
「続いてもう一曲! 卒業ソングといえばこの合唱曲だ! 心を込めて歌います……『旅立ちの日に』」
「いええええええええええい!!!!」
「わー……」
なんか、ええと、なんだこれ。
ころなちゃんがわーと言っているのはわかる。
「あ! きみ、こたつ部の部員? わたし、
歌を中断して話しかけてくるのは、陽奈先輩の友達のようだった。
「あ、いえ。古沢
「おおーっ、きみが噂の暖隆君かあ。陽奈のことは頼んだよ!」
「は、はい。え?」
「暖隆君、この子がいつも言ってる『よよちゃん』さ」
陽奈先輩が僕にこたつに入るよう促しつつ言う。
「ボクの親友のひとりなんだけど、今さっき受験の合格通知が来たところなんだ」
「だから荒ぶってたんですね……」
「いやー、あははは。ちょっとテンション上げすぎたかなー。隣の部室の人たちとかに迷惑だったよね……」
「今日は本当は部活なしの日だから誰もいないと思うよ」
「よっしゃ三曲目ぇ!!」
よよちゃんさんは桜ノ雨を歌い始めた。絶叫するみたいに歌っててやばい。
「楽しい人ですね」
「そうだろう? はいころなちゃん、みかんあげる。暖隆君にも」
「ありがとう……」「どうもです」
三人でみかんをもぐもぐしながら一人のシンガーを眺める。レミオロメンの3月9日をデスボイスで歌うのはやめたほうがいいと思った。
「もうボクがこたつ部にいられるのも今日を入れたらあと三日だね~」
「八日になったら終わりですもんね。なにかやり残したことがあったら今のうちにやっとかないとですよ」
「んー、そうだなあ。ボクは特にないかな。特にないよ。うん。ないない。それより、暖隆君の方こそやり残したことがあるんじゃあないかっ?」
「僕?」
「ボクはもう卒業しちゃうんだよ? ボクと一緒にやりたいこととか、ボクに対して言いたいこととかはないのかい?」
陽奈先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「例えば~、『陽奈女王様の靴を舐めさせてください』とか!」
「先輩そういうキャラじゃないでしょ……」
「も~、自分に正直になりなよ~。ボクはいつでもウェルカムなんだからさ~。靴が嫌だったら他のところを舐めてもいいよ~?」
僕は他のところとはどこなのかと考えた。
「暖隆君いま不健全なこと想像しなかった!?」
「先輩が不健全なこと言ったんでしょう!」
「い、今のはついノリでというか、別に靴以外のところを舐めてとしか言ってないもん!」
「じゃあどこを想定して言ったんですか!」
「そ、それは、ええと、ええと、ころなちゃんはどこだと思う!?」
「押し付けやがった!」
「……? ひぃちゃん先輩の、舐めたいところ……?」
「ま、まあそうかな、うん」
「私は……」
ころなちゃんは、にこりと笑って、言った。
「髪……」
「「何で!?」」
「ひぃちゃん先輩の髪、つやつやしてるし、いいにおい……」
確かにそうだけど。陽奈先輩は「そ、そうなんだ……」と照れ顔になっていた。なんで?
「ボクの髪、けっこう頑張ってお手入れしてるから、褒められると嬉しいんだ~」
「そうなんですか。でも食べられたら困るんじゃ?」
「ころなちゃんはそんな猟奇的じゃないでしょー。ねー?」
「りょーきてき……?」
「まあ簡単に言えば、普通の人から見れば異常で怖い感じの人とかのことさ」
「あぁ……。あーくん先輩やひぃちゃん先輩が言ってた、こたつ部四天王さんのこと……?」
「あはは、まああの人たちはヤバイ人たちだけど、でも優しくていい人たちだよ? ……おや、よよちゃん、もう歌はいいのかい?」
「げほっげほっ、アァー、喉がイカレた」
「ずっとデスボ続けてればそうなりますよね……」
よよちゃんさんがこたつに入ってくる。
そして言った。
「で、暖隆君が陽奈をペロペロする話だっけ?」
「「蒸し返すな!!」」
けらけらと笑いながら友達とじゃれ合う陽奈先輩。
こんな光景もあと数日で見られなくなるのか。
僕は緑茶をすすりながら、いろいろなことを考える。
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