第35話 演算装置八正

「平家から会談の誘いですと」

「あぁ、そうだ」

「喧嘩を売られているのか、それとも奴らが血迷ったのか、どちらでしょうか兄上」

「その喧嘩を収めるための会談だ」

「しかし我らは、継信や忠信を取られております!」

「それを言うならお互い様だ、犠牲者の数でいうなら向こうの方が多い、冷静になれ牛若」


 あの日の翌日、俺たちは頼朝さんの元へ呼び出され、平家から和平会談の申し出があった事を告げられた。

 勿論その事に食って掛かった牛若だが、頼朝さんに宥められ、不承不承ながらも最終的には賛成する事となった。

 会談は勿論非公式な物で、事務方の事前協議なども無い、いきなりのぶっつけ本番と言う、乱暴この上ないものだったが、それは彼方の焦りから来るものでなく、平家の頭領、平清盛の独断によるもので、彼方の陣営も多少は混乱している様だった。



「俺も参加するんですか?」


 昨夜の戦闘では、確かに俺の存在は戦闘のど真ん中にいた、しかしそれは戦利品としての存在だ、そんな俺に参加させるなんて。昨夜釣り逃がした魚の値踏みをしたいと言っている様なもの。なんとまあ豪胆と言うか、馬鹿にしていると言うか、判断に困るところだ。


「招待状は君の分も届いている、源氏の出席者は私と牛若、そして君。後はお付のアンドロイド達と言った所だ」

「正式な会談ではないと言え、随分と思い切った事をしてきますね」

「まぁ、それが清盛の翁(おきな)の何時もの手でもあるがね、普段はめったに表に出てこないが、一旦出てくるとその行動は大胆不敵、食えない爺さんだよ」

「でも、俺を指名となると」

「あぁ、戦の手打ちと言うよりは、君への対応が話の中心となるだろうね。だが、君は牛若の客人、すなわちこの私の客人だ、会談最中の身の安全は保障しよう、どうだね参加してくれるか?」


 ふざけた話だ、こんな事をするなら昨夜の戦いは何だったのか、あそこで死んだ人たちは何のために死んだのか、やるせない憤りを感じる。だが、そんな事を言いだした平家の頭領とやらの顔を拝むまたとない機会であるのも確か。


「勿論です」

「そうか、感謝する」


 俺は敵ボスのふざけた面を拝むため、あえて飛び込んでみる事にした。




 会談場所は、中立である北条所有の別荘で行われる事となった。そこは全面が巨大なドームで覆われた空間で、その中に限っては、正常な空気と、天井に投影された映像ではあるが青い空が広がっていた。


「おう源氏のよく来たな、まぁとっと座れや」


 先についていた平家の第一声はまず、その一言だった。それを発したのは禿頭の老人、彼はそばに知盛と教経を控えさせており、間違いなく彼が平家の頭領、平清盛その人であると確信が持てた。

 清盛の印象としては、最初の気軽な挨拶もあり、胡散臭くもどこか憎めない好々爺と言った所だった。

禿頭と枯れ木の様な小柄な体は、通常なら矮小な存在に見えたかもしれないが、実際はその逆。深い英知と経験を携え、にじみ出るカリスマに満ちた貴い人物に見えた。


「こちとら、老い先短い老骨に鞭打って、出張ってきてんだ、とっと始めるぞ」

「お待ちになって下さいな、清盛のおじい様、ここは北条の仕切りです。せめて開会の挨拶ぐらいはさせて頂かないと、恰好がつきませんわ」

「かはは、確かにそうだ。歳とると気が短くなっていけねぇな。おい時政(ときまさ)、人はそろったんだ、とっとと始めちまおう」

「そうですね、では。ここに平家と源氏による会談を始める事を宣言します、立会人は北条家頭首、時政が行わせて頂きます」

「司会進行を務めます、北条政子です。本日の会談が実り多きものとなる事を期待していますわ」


 そうして、会談の幕は開けた。





「先ずは、時政。お前んとこの庭で暴れちまった分謝罪させてもらうぜ。どうもこいつ等、俺の言葉を早合点しちまったみてぇでな、俺も報告聞いて冷や汗が出たぜ。勿論、復興費や諸々の金、平家が全部持たせてもらうぜ」

「何が早合点だ貴様!貴様らの軽率な行いでどれ程の犠牲が生じたと言う!」

「おうおう、相変わらず源氏の姫は元気でいいねぇ。だから見舞い代も含めて全部こっち持ちで構わねぇって言ってるだろう」

「金ですむ――」

「牛若様、発言するときは挙手をお願いいたします。それと冷静に」

「むぅ……」


 牛若は政子さんの発言に水を差され、大人しく引き下がる。まぁ助かった、こんな最序盤で話が終わっては、何の為の会談だかわからなくなる。しかし初手から自分たちの非を認めてくるとは予想外だった。いやある意味では予想内か、金で済む謝罪などとっと終わらせて早く本題に入ろうと言う腹か。


「そうですね、北条としてはそれで構いません、我々はあくまで中立の立場ですので」


 そう、時政さんは答える。まぁ彼の立場からはそう答えるしかないだろう後付け加えるなら次は他所でやってくれと言った所か。


「それでは、清正殿。貴殿は今回の戦争の責任もそちらが取ると言う事でよろしいのですか?」

「おっと待ってな、頼朝さん。親父が言っちょんのは、あくまで昨夜の戦闘についてじゃ。それ以外は別件じゃて」

「なる程了解いたしました。ではお聞かせ願いたい、不戦条約を無視して行われたここ最近の戦闘の目的とは?何の大義名分で戦争を再開なされたのか?」


 知盛はちらりと清盛を見る、清盛はそれに対し頷き返し、返事を知盛に任せる。


「そんなもんは、頼朝さんらが調べている通りに考えてればえぇで。なんせそっちには姫さんがおるんじゃ。想像するのは容易じゃろ」

「御答えはしないと」

「そうじゃ、答えはせん」


 平行世界云々についての公式発表はしないと、おそらくは小競り合いが発展とかのストーリで押し通す事になるだろう。


「答えはせんが、ウチの軍を戦争再開前の位置まで引くことはしてもえぇで」


 それは、戦闘の目的を達成したからと言う事だろうか。

 以前聞いた『思い出作りの大運動会』とやら、政子さんの予想では、この戦闘の目的は、俺たちの世界へと移住する者たちを選抜する予定で行われたと言う事だ。

 確かに俺たちの世界では、平家は既に博多に根をおろし一定の地位を確立している。これ以上の浪費は無意味だろう。


「それでは、此度の戦の目的は?」


 牛若が切り込む、予定調和で退屈な前座などとっと終わらせ本番に移れと言うことだ。


「さっきも言った通り、早合点よ。本当はその小僧を家に招待したかっただけだよ」

「招待?ふざけるな!アレは殺害もいとわない拉致と言うのだ!」

「そうそう、そこが勘違いよ。俺としちゃ穏便にいきたかったが、何しろ平家の連中があの施設に入っちゃ目立つことこの上ない、そんな小さな積み重ねが大事になっちまってな」


 そう言って、清盛は笑う。殺されそうになったのは事実だが、俺が負った致命傷の大部分が牛若が設計した罠によるものだ。まぁ自分から囮になると言いだしては見たものの、予想より来るのが遅かったのと日々の実験疲れで、罠の存在をすっかりと忘れていて、軽く1・2度死んだだけだ。


 ぽんぽんと背中を叩いて牛若を落ち着かせる、全くこいつは刀を手にすれば落ち着くのに、それ以外だと情緒不安定で落ち着かない。

 手を動かしたついでに、挙手をして発言権を求める。


「ならば、貴方は僕にあって何を話したかったのですか」


 俺は、先ほどからニヤニヤと、俺と牛若のやり取りを見つめる清盛に、睨み付ける様にそう聞いた。


「いやいや、世界が異なると言うのに、仲が良くて何よりだ。そんで俺が聞きたかったのは、お前さん、その娘の事が大事かい?」

「??まぁ、短くも無い時間を一緒に過ごしてきましたから」


 そう、初めて出会ってからおよそ1年近くになるだろう。今ではこいつが隣にいないと物足りないようになってきた。


「そうかい、そうかい、仲良きことはなんとやらってな。そんじゃあお前さん、その嬢ちゃんの為に死ぬ覚悟はあるかい?」

「はっ?」

「何を言い出す貴様、主殿は某が守ると誓ったのだぞ、その逆などこの牛若の目の黒いうちはありえないと思え」

「おい馬鹿やめろ、その言い方じゃ。お前の目を白くしてから、俺の目を白くしに来る」

「はっはっは、いや若いもんは元気でいいねぇ。ただ勘違いしてほしくないのは、俺はその小僧を殺したいんじゃない、死んで欲しいんだ」

「は?何が違うって言うんだ」

「俺は頭領だからよ、重要案件には目を通す。今回の様な最重要事項なんてもんは老眼を皿のようにして隅から隅までだ、そん中で最も目についたのは、お前さん、佐藤真一の事だ。

 お前さんには、大きな異常から、小さな違和感まで面白い事満載でよ、そんで報告書を追っていくうちにある事に気付いた、そしてそれはこの前のGENとの小競り合いで確信した」


 ガチャンと、コップが倒れる音がした、振り向くと。政子さんが顔を青白くして倒したコップをかたずけていた。


 文字通りの水入りと言う事で。清盛が小休憩を提案しそれは受け入れられた。





 政子さんは、小休止を告げるとそそくさと控室に入って行った。俺は急いで後を追おうとすると。


「申し訳ございません、佐藤様。お嬢様は今回中立の立場となっております、どうかお引き取り下さい」


 と、取りつく暇も無くアンドロイドの侍女に止められる。しょうがなく、俺たちも専用の控室へと足を向けた。





「政子さんのアレどうなってんだ!?ってか俺はどうなるんだ!?」

「落ち着きください主殿、アレは演技でございますよ。政子殿はあのように素直に感情を表に出すような方ではございません」

「うむ、まぁそのあたりが可愛くもあるが、問題は政子があのような手段を取ってまで休憩を挟ませたことだな」

「そうでございますね。兄上は何か聞いておられませぬか?」

「残念ながらまだだな。研究の進捗はまだまだ始まったばかり、幾つか面白いデータは手に入ったが、纏めるのにはしばらくかかるとしか言われてないぞ」

「左様でございますか、弁慶は何か気づいたことは無いか?」

「そうでございますね。八正の変化を抜きにすれば、初期の佐藤様と比較した場合、現在の佐藤様は不死身度が大幅に上昇している程度、でございますか」

「うむ、その程度よな。最近某は、主殿は首を落としても死なないのではないかと、鯉口を押えるのに難儀している程度だぞ」

「おいてめーふざけんなよ。そう言えば昨日の罠だって2・3回は死んでたぞ」

「だが、君は今生きていると。確かに昨日見せてもらった報告書だと、この世界の兵でさえ並のものなら1回は死んでいる程度の罠だったな」

「そうでしょう!頼朝さんからも護衛対象の扱い方についてちゃんとしつけといてください!」

「いやいや、アレはあえて護衛対象を雑に扱うことで、侵入者に護衛対象の同情させると言う高度な戦術でしてね」

「そんなもんあるか!」





「しかし、そうなると。限りなく死ににくい俺に死んでもらう事が目的?いや実際は死んで生き返っているらしいんだが」

「んー、判断材料が足りませんね」

「そうだな、なんであれ。政子にあんな芝居をさせる程度には衝撃的な事が待ち受けていると言う事だろう、佐藤君心しておいてくれ」

「大丈夫ですよ、主殿は某がお守りいたします」

「んー、よく分からないけど覚悟だけはしとけと言うのは分かりました。後、牛若。まぁよろしくたのむよ」

「了解でございます」


 そして会談の再開を告げるノックの音が、俺たちのいる控室に響いて来た。





「それでは、会談の再開を宣言いたします」


 テーブルの両側に座る両陣営にむけ時政さんが宣言をした。


「さてよ、そんじゃ決心はついたかい?」

「いや、理由を説明して頂かない事には何が何やら」


 再開後の第一声は、清盛さんから俺に向けてのものだった。


「そういやそうだったな、つい話した気になっちまってた」


 よく言うよ、そんなことある訳がない。薄々感づいてはいたが、この人は相当な狸おやじだ。もし陣営が違っていたら、ウチの狸娘(うしわか)とよく気が合っていたのかもしれない。


「まぁ、なんてことない話だ。お前さん自分の特異性には気が付いてるかい?」

「不死性のことですか?」

「うんにゃ、それも興味深いがそこじゃねぇ」


 先程、控室で話題になっていた事を言ってみたが、ビンゴとはいかなかった。


「木曽義仲の八正も取り込んだこと?」

「それは不思議ではあるが、不自然な事じゃない。元々一つのものだったのを細かく砕いてコアとして利用してんだ、結合従っても可笑しかねぇ」


 これも外れ。


「では、そもそもの八正を埋めこまれたこと?」

「それが、答えとしちゃ一番近いが、大雑把すぎるな。まぁいいこれでお前さんらが、小僧の変化に気が付いていない事は分かった。

 いいか小僧、お前さんは人間から、八正よりの存在へ。そして八正よりの存在から、それを超えた別の存在になりつつあるんだよ」

「別の……存在?」

「そもそも、八正コアってのは、次元を引き裂く力を持った唯の鉱石にしか過ぎない。まぁその力ってのも、人知を超えた神代の石と言っても過言じゃないがね。それでもその石っころを使って、そこの嬢ちゃんを中心として演算装置八正なんてもんを作り出した。そりゃあすげぇ発明だ。政子の嬢ちゃんは胸を張っていい。平家にはそんな発想も技術力も持っちゃいなかったからな」

「回りくどいぞ貴様、そもそも、その八正コアと言うのは何なんだ、いい加減答えてもらおう」

「おう良いぜ」


 清盛は、あっけなくそう答えると、教経に指示を出した。教経はそれに頷き、彼の従者から布に包まれた棒状のものを取り出した。


「教経殿!ここでは武装はご法度ですぞ!」


 布からあらわになったそれを見て、時政さんが声を荒げる、隣に座る政子さんも背後に控える武装侍女たちにいつでも支持を出せるように合図の構えを取る。


「無礼者、これは貴様ら如きの血で怪我すには勿体なき品物だ。それに貴様らが見せろと言った品物だぞ」

「…………それは、あの時の」


 あの時の、そうだあの時俺は死んでいたので見ていないが、後で弁慶さんに見せてもらった記録映像に映っていた不思議な剣。

 その素材は青銅の様な青緑をしているが、清く輝くその刀身に、青銅の野暮ったい重たさは無い。造りは直剣を左右真っ二つにしたように不自然で、一見すると銃剣の様にも見えた。

 それは、俺とは異なるベクトルでの不死身さを発揮した無敵の鬼、源為朝を切り捨てたあの剣だった。





「……それが、八正コアの元なのか」

「どうぞこれを」


 教経は問いを無視して、その剣を恭しく清盛に捧げる。こいつは気難しくてな、俺以外だと教経が漸く扱える程度だ。その他の人間が持ったところで、こいつは切れ味も強度も無いただの石剣だがよ。


 その剣を、清盛が持った時だ、清く輝くその剣は、さらに光を増し、神々しさすら感じさせる、まさにこの世のものとも思えないような尊さを示した。


「こいつの能力は先に言った様に次元を切る、それだけだ。だが、その力を使えばどんな強固な肉体を持とうが関係ない、なんせ次元ごと裁ち切っちまうんだ、対象の強度がどうあれ一刀両断よ」

「……清盛の翁、それは一体何なのですか」


 その剣の威光に冷や汗すらにじませる、頼朝さんがそう尋ねる。


「叢雲(むらくも)、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)と、かつては呼ばれていた剣だ」

「叢雲?」


 頼朝さんと牛若は心当たりがないようで微かに首を傾げる。あぁそうか、そういう事もあるのか。この世界ではとうの昔に国家と言うものが意味をなさなくなり、源氏や平家と言った企業政府がそれぞれの土地を収めていると聞いた。

 ならば、この2人が今の名前でピンと来なくても仕方がない。だが、俺は知っている、聞き覚えのある名前だ、そしてここにあるのが不思議でもある名前だ。


「なぜ、貴方がその剣を持っているのですか」


 そう聞いた俺に、隣の2人は不思議そうにこっちを見て、向かいに座る清盛はニヤリと笑う。


「そうかいそうかい、折角格好つけて出したんだ。きちんと歴史の勉強をしている様で何よりだ。

 そう、こいつは天叢雲剣、またの名を草薙剣、神代においてスサノオノミコトが八岐大蛇の尾より取り出し、神権の授与として歴代天皇に譲られた国家三宝の神器だよ」

「天皇?どうしてここでそんな、世から忘れ去られた隠者の名が出てくる、この世界ではそんな権威などとうに失われたわ」


 そうだ、この世界においては、企業こそが国家。国家神道やらなんやらは、とっくの昔に過去の話になっている。ならばなぜ?それでもこちらの世界で受け継がれていた神器を清盛が手に入れたのか?


 そう考えていると、清盛が俺の目を見てニヤリと笑う。


「違うぜ、坊主、これはこちらの世界のものではない。もっともこちらの世界でもこの剣は既にはるか昔に喪失したらしいがな」

「貴方は一体何者なんだ!」


 声を荒げる。この世界の剣ではない?ならばどの世界の剣なんだ!?


「言仁(ときひと)、またの名を安徳(あんとく)か、この名を出すのも久しぶりだぜ」





 草薙剣、次元を切る剣。

 安徳天皇、源平合戦の最終戦、壇ノ浦にて入水。


「貴方が、あの、安徳天皇なのか!?」

「そっちの世界のと同一人物か確かめる方法は無いが、確信はしているぜ、なぜなら俺が居るからだ。

 壇ノ浦にて祖母の時子に連れられ入水した俺は、無意識のうちに叢雲を振るった、その結果次元を切り開き、この世界にたどり着いた。そこで、この世界と前の世界に縁が出来たと考えてもおかしくはないだろう?」

「主殿、こやつ一体何を?」

「牛若ちょっと黙ってて、後で説明する。

 では……清盛さん、貴方は故郷に戻るために、かつての世界に進攻を企てたと?」

「おいおい、乱暴なこと言うなよ。戦力に差があり過ぎて進攻になっちまうかもしれねぇが、基本的に友好にやっているはずだぜ?

 それとお前さんが呼んだように、今の俺は清盛だ。数10年前こちらの世界で瀕死だった俺を養子として迎え入れた平家の子になってからはな」

「それじゃ、えーっと、駄目だ、頭が混乱して来た」

「かはは、こっちの世界じゃ、安徳の名を出してもお前さんの様ないい反応はかえってこねぇからな、俺もつい悪乗りが過ぎた。そんじゃ、話を元に戻すぜ。

 頼朝。お前さんは、この小僧をサンプルに、この星の現身を作り出し、そいつをどうにかすることで、星を延命させるつもりだってな」

「何処から話を聞いたのか知りませんが、その通りです」

「そいつは無駄だぜ、俺はこの星でのGENとの戦いの様子も入手したが、こっちの星の現身となる権利もその小僧が持ち始めている」

「なぜ、その様な事が言えるのです」

「そいつは、これだ」


 そう言い、清盛は記録映像の準備をさせる。透過ディスプレイが現出しそこに牛若達が飛び回る姿が映し出される。


「先ずは、これからだ。これは、向こうの世界での教経との戦闘の記録だ」


 そこには、教経が牛若をあしらう様子が映し出されていた。その映像に牛若は口を顰める。


「で、これが何だと言うのだ?」

「問題はチャンバラやってる所じゃねぇ、地面に注目して見ろ」

「……これは?カメラの不調か?」


 そこには、教経が石に足を取られる場面が拡大されていた。だが違う、点としてみればそう見えるが、動画としてみれば。


「……木石が、教経の足を取りに行っている?」


 一つ一つは微かな動きだ、だがそこに注目して見ると、確かに動くはずのない木石が教経の行動を妨害する様に動いていた。


「続いて、こっちの世界でのGENとの戦闘だ」


 今回も似たようなものだった、飛び散る瓦礫や、舞い踊る炎でさえ、牛若達が有利になる様に動いていた。


「……確かに、此処の所、妙に戦いやすいと思っていたが」

「それが、この小僧の能力だ。こいつは世界と一体化し、世界を意のままに動かし始めている。今はまだ意識のない木石を動かせているにすぎないが、そのうち人間も操れるようになるかもな」


 ぞくりと黒い何かが背筋を這う。あの時感じた一線とは、このことだったのか。


「どうやら、心当たりがあるって面してんな。お前さん、そのうち八正空間なんて展開せずにその力を使いこなせるようになるぜ」

「それは、そんなもの、人間じゃない」


 正しく神の権能だ。


「そりゃそうよ、星の現身なんて、言い換えれば神そのものじゃねぇか。

 頼朝、お前さん人造の神を作り出し、そいつを生贄にしようとしてんだぜ」


 沈黙が室内を支配する。考える、清盛の話には仮定が多いが、言っていることは間違っていないような気がする。ちらりと頼朝さんの方を見る、そこにいた頼朝さんは――。


「流石です、翁。私の計画は正にその通りです」


 笑っていた。


「ほう当りかい」


 頼朝の答えに、清盛もまた獰猛な笑みを返す。


「俺は、この世界に見切りをつけて、故郷に凱旋しようと思っていたが、お前さんは神の首根っこを掴んで、この世界を再生させる腹積もりだったとはね。

 これじゃお互い極楽へは行けそうにないな」

「当然です、組織の主と言うのは幾億もの屍の上に立つ者。私の場合はその中に神を、翁の場合は他の世界の住人を加える、それがどうして極楽浄土へと参れましょうか。

 しかし、翁の話が本当だと仮定すれば厄介な事になりますね」


 そう言って頼朝さんは酷く冷酷な目で、俺の事を値踏みする様に眺める。


「生贄の人柱なぞ、時代錯誤。ならばこそ私は埴輪の代わりにアンドロイドを当てるつもりでした、ですがその資格が彼にしかないと――」


バンッ!と机を叩く音が響いた、それは牛若が鳴らしたものだった。



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