第22話 ゲームの貸し借り
今、圧倒的な自分自身に対する恐怖が襲ってきている。
私は他人の死を望むこともあるが、実践するような行動は取らない平和主義者だ。
それなのに、何故?
考えても、答えは出ない。
「お前、何やってんだよ……」
「自分でもわからない……」
本音だが、信じてもらえそうもない。
そもそも、あの瞬間、身体は私の意思とは勝手に動いていた。
もしや、ドッペルゲンガーに一瞬、乗っ取られたのだろうか?
しかし、理由がわからない。
理由を聞いても、許されないことなのだが。なんたって、殺人だし。
「お前なら、魔が差してやりかねないとは思ってたけどさ…。マジでやるなよ…」
「あんな事をしでかしたし、私はここを追い出されるのだろうか」
「そんな訳ないだろ。そもそも、此処を出て何処に行けるんだよ、お前は」
「何処にも」
出れたとしても、野垂れ死ぬのがオチだろうな。
普通なら、牢屋行きだと思うんだけどな。
「結局、私は罰されないのか」
「…アレはお前の意思でやったことじゃないんだろ?」
「そうだと思う」
殺意は、無かった。
少なくとも、私自身には。
…無かった筈なんだ。
でも、実際に絞めた。
「本当に、何でだろう」
「オレが知るかよ」
イルが通りかかって本当に良かった。
イルが通りがかってなければどうなっていたことか。
犯罪者としての烙印を受けることは間違いないだろうが。
でも、もしそうなっていたとしても。
人を殺したとして、私の何が変わったというのだろう。
ダメになるだけだ。
これ以上、無いくらいに。
「お前さ、ヤバいこと考えてるだろ?」
「心を読むんじゃない」
「顔にそう書いてあるんだよ」
どんな顔だよ。
「あと、死相みたいなのも出てってけど」
「え」
私的には、万々歳だが。
「冗談だよ」
そう言って、イルは笑った。爽やかに腹が立つせせら笑いだった。
非常にムカつく。ぬか喜びさせやがって。
「お前は暇すぎるからそんなことを考えこんじゃうんだよ」
「…暇過ぎるって…」
「暇を駆逐してしまえば、そんなことは考えられなくなる筈だ」
成程。確かにそれはそうだ。
「という訳で、はい、ゲーム」
そう言って、イルは何処からかゲームボーイを取り出し、私の眼前に差し出された。
「いや、要らないですよ」
「遠慮するなって」
「遠慮なんかしてないって」
「またまた」
「いや、本当に要らないって」
マジで要らない。本当に。
ゲームはもう懲り懲りだ。子供の頃、散々やったし。
不要だ、不要。
ゲームなんて娯楽はもう、私には要らないのだ。過ぎたものだ。
頼むからそんな楽しそうなものを私に渡そうとするな。
「要らないんだよ…………」
「……でも、お前今は読書も出来なさそうだけど…」
「…そんなこと、心配されなくたって良い」
確かに、暫く読書は出来なさそうだ。図書館にも行けないし。
…ダメだ、あの少女の姿が頭にちらつく。
「黙って受け取っておけよ」
「………えー……」
結局、私はゲーム機を受け取ってしまった。
我ながら、押しに弱い。
この性格、どうにかならないかな。
いや、ならなかったから今ここにいるんだよな。
終末モラトリアム @Rene
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