第21話 目の前の貴方を殺す

絶対零度の冷たさを間近で浴びせられた人間は、表情はきっと目の前にいるアーネスト氏のようになるのだろう。

アーネスト氏は、答えない。

 そんなに不味いことを聞いてしまったのだろうか、私は。

 アーネスト氏の表情を見ていて、不安になってしまった。

 もしかして、触れてはならないことだったりしたのだろうか。

「いや、何人かには廊下とかですれ違ったり、話したりしてるんですけど…。どうも、余り見かけなくて少しだけ気になって…」

 言葉を続けてみたが、どうだろう。

 致命的な間違いを重ねてしまった気がする。

 アーネスト氏は顔面蒼白になってしまっている。

 どうしよう。

 殺してしまえば良いのかな。

「え?」

 自分で自分を疑った。

 何だ、今の思考は。

「佐藤くん…やめてください」

 アーネスト氏の表情は、苦しげだ。ただでさえ蒼白な顔色が蒼さを増している。

 しかし、やめてくださいとはどういうことだろう。

 私は、何を、している?

「あ……佐藤くん……お願いします……どうか…」

 苦しそうだ。

 空気が、吸えていない人みたいだ。

 いや、そうだ。この人の頸椎を私は力いっぱい絞めている。

呼吸困難にも頷ける。

ぎりぎりぎりぎりぎり、と絞めていく。アーネスト氏の抵抗は、ますます弱くなる。

いや、アーネスト氏は抵抗といえる抵抗をしていない。

なら、仕方がないだろう。

何もしなかったなら、仕方ない。

でも、どうしてだろう。

私は、何故。

こんなことをしているのか。

アーネスト氏は、引き攣った苦悶の表情を浮かべている。これはいけない。

早く終わらせないと可哀想だ。

ふと、私の中で、何かが嘲笑った気がした。

「おい、何してんだ?」

知っている声がして、首をそちらに向けた。

呆れたような表情をしたイルがいた。

その後、何事もなかったかのように、アーネスト氏と別れた。

私は人を殺そうとしていたようだ。



でも、何故?

それだけがわからない。

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