第17話 覚醒の疲れ
「………起きないと」
目が覚める。
全身を殺しつくされるような悪夢ではなかった。
だが、どうも腑に落ちない。
あの夢は一体、なんだったのだろう。
殺しつくされる夢とはまた違った、後味の悪さを感じる。
「…夢に理由を尋ねても無駄だって知ってはいるけどさ…」
なんなんだ、あの夢は。
「ま、ドッペルゲンガーが出てくるような夢じゃなくて良かった……」
精神的に疲れると、美しいものが見たくなる。
例えば、絵画。
画家が自身の全てを活用し、描き上げた作品は俗世で染みついた疲れを落としてくれる。自身の好みに合った作品と出会った時の感動や、癒しは計り知れない。
詩も、良いだろう。
美しい言の葉は、心を洗い流してくれる。
詩の無い人生は今の何十倍もつまらないものだと私は確信している。
音楽もまた素晴らしいだろう。
嫌な現実を忘れさえ、空想の世界に連れて行ってくれる。文化の極みだ、まさに。
「美しいものが見たい……」
切実に見たい。
ここに音楽はない。
絵画もない。
美術館にも行けはしないだろう。
そもそも、金が無いし。
なら、私がやれることは一つしかない。
「…図書室に行こう」
あそこになら、詩集があるだろう。
何よりも美しい少女がいる。
あの、漫画や絵画からこっち側に来てくれたような天上の美を持つ少女が。
「…本当に綺麗だったな…」
私は別にロリコンじゃない。
アリスコンプレックスでもない。
そんな私でさえ、あの少女は美しいと思ったのだ。
彼女は、存在自体が芸術品だった。
あんなにも美しい存在がこの世に存在していて良いのかと本気で思った。現実にあって良い美の範疇を越えているような気もした。
そして、ノスタルジーを引き起こさせる美を持っていた。
これは、大変稀有なことだ。
「…あー…会いたいなぁ…」
あの少女にもう一度で良いから会いたい。
疚しい気持ちなど一切抜きだ。
私はただ、美しいものを見て癒されたいのだから。
「…ロリコンじゃない、私は」
…………誰に言ってるんだ、自分は。
自分自身に少し呆れながら、部屋を出た。
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