第10話 二度目の悪夢
目を覚ますと、またあの真っ白な床と天井が存在していた。
そして、矢張り、私の目の前には。
私と似ても似つかない笑みを浮かべるドッペルゲンガーがいた。
「よう」
にこやかに挨拶をするドッペルゲンガー。
私は、返事をしない。する気も起きなかった。
どうせ、また私はコイツに惨たらしく殺されるのだ。
足掻こうにも、前の夢と同じく足は拘束されている。抵抗は、出来ない。したって無駄だ。そもそも、そんな気は無い。夢なのだ。
幾ら、斬られた所で死にはしない。前の夢で経験済みだ。
痛みがあるだけだ。耐えきってしまえば、朝は来る。だから、安心だ。
安心して、死ねる。激痛と、恐怖を甘受すれば。
「…どうしたんだ?ん? 抵抗しないのか?」
ドッペルゲンガーは笑った。
「しないさ。だって、拘束されてるし……それに」
「うん?」
「ここでどれだけ死んだって、現実の私はなんともないだろう?」
私は、笑う。
私の言葉を聞いたドッペルゲンガーは顔を顰めた。
「つまらないな」
「そうか」
「最初はあんなに惨めに怯えてたのに」
「アレで耐性が付いたんだよ」
足掻いても無駄。なら、流れに身を任せるべきだ。
「じゃあ、今から殺すよ。後悔したくなるほどに、無茶苦茶になるまで、殺してやるよ」
「どうぞ」
ご自由に。
私は何をどうしたって逃げられないのだから。
ドッペルゲンガーは、また顔を歪ませた。
悪いねぇ。
私だって、それなりに順応しようとするんだよ。
まず、私の腕が引き千切られる。
赤黒い切断面から、血が流れていくのを見届けて、遅れて痛覚がやってくる。
しかし、これだけでは終わらなかった。
次に、私は首を刎ねられた。
……ここまできてしまうと、最早痛覚は作用しない。しかし、ドッペルんゲンガーは私を殺す手を緩めなかった。
私の首は、ドッペルゲンガーに抱えられ、離された身体が見える位置に置かれた。
そして、解体する様をまんじりともせずに眺めることになった。
四肢をざくざくと斬っていく様子は、料理をしているように見え何故だか酷く日常に近しい動作に見えた。ぶちぶちと肉が斬られていっているからなのだろう。
更にドッペルゲンガーは腹を裂き、内臓を引き出し潰した。てらてらとぬらりと光る自身の内臓を、私は初めて視認した。
私は、それを何の感情も抱かずに見つめた。
地獄のような図を直視しても、私は何の感情も抱かなかった。
痛みも、嫌悪すらも感じない。
だが、恐怖は感じた。
一体、アイツは何故執拗に私を夢で殺すのだろうか。
得体のしれない憎悪。
今の私には、それが何よりも恐ろしく思えた。
他者を妬み、嫉み、憎悪すること自体は理解は容易い。殺意だって、異常だとは思わない。ただ、それを実行に移せる、ただそれだけが私は理解出来なかった。
やがて、私の頭上にナタが振り下ろされる。
最期に目が会ったが、その目は想像していた通り、憎悪と闇によって汚れていた。
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