第8話 ドッペルゲンガー再び。
適当に辺りをうろついて見たけど…まあ、こんなものか」
教室や図書室もあったし、これからそこで社会復帰の勉強をすることになるのだろう。あの病とかいう男は十中八九サボりそうな気がする。
「明日からもやっていけるのだろうか、私は」
不安だ。
集団生活に溶け込めるのだろうか。
今朝の朝礼で咆哮していた男に比べれば、幾分かまともなんだろうけども。そもそもここで何をすればいいのかわからない。
「…そういえば、アーネストさんは何処にいるんだろ」
会って、明日の予定が聞きたい。
でも、何処に行けば会えるんだ?
「取りあえず、自室に戻ろうか」
もう、やりたいことは無くなったし。
やらなきゃいけないことは、私には無い。
私は、自室を目指し、廊下をゆっくりと歩き始めた。
何処までも続いていきそう、という馬鹿げた妄想を振り払いながら。
白は、嫌いだ。
余りにも清潔な色過ぎる。
汚れた人間である、という意識が強い私のような人間にとって。
白は、毒だ。ただでさえ、あんな悪夢を見たんだ。良い印象なんて持てない。
「早く戻ろう…」
戻って寝よう。
これ以上、いやな事を考えないように。
出来る限り、長く寝よう。
いや待て、寝たら。また、あの悪夢が。
「馬鹿だなぁ……………。寝ても、覚めても同じだよ」
聞き慣れた悍ましい声が近距離でした。
「……」
声の方を、見たくない。幻聴だと信じたい。
あの悪夢を引き摺った幻聴なのだと。
「…あれぇ、無視は酷いなぁ?」
その声と同時に、目の前にドッペルゲンガーは現れた。
「……真っ青だね、顔」
当たり前だ。あんなことをされてにこやかに対応出来る人間がいるなら別の意味で人間失格だ。私はそんな聖人を人間だと認めない。
「何で、目の前に現れた?」
「その前に聞きたいことがあるんだけどさ」
「……何だよ」
「本当に、なれると思ってるの?」
「………何にだ」
ドッペルゲンガーは、笑った。私を蔑むように。そして彼が何を言いたいのか、手に取るようにわかってしまった。
聞きたくない。そんな話は聞きたくない。
目を逸らして、口を噤んで、耳を塞ぎたい。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
コイツには。
コイツにだけは言われたくない。
自分自身には、言われたくない。
そう思っているのも、きっと見透かしているのだるう。ドッペルゲンガーは、加虐的な笑みを浮かべている。
やがて、ドッペルゲンガーは口を開いた。
「お前は、まともになんかなれない」
ああ、そうだ。
「お前は一生ダメなままさ」
そうだろうな。
「一生苦しめ」
嫌だ。
「一生他人に迷惑を掛けて、苦しめて、生きていけ」
やめろよ。
「生まれてこなきゃ、良かったのにな」
もう、そんな言葉は。
そんな言葉は、聞き飽きた。
私は、ドッペルゲンガーから逃げ出した。
奴は、追ってこなかった。
代わりにいつまでも笑っていた。
どこまでもどこまでも、笑い声だけが私の耳に付いてきた。
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