秋田編12
「のんがいけないのよ。私、悪いことなんて何もしていないもの」
小町がそう訴えると、目に溜まった涙が頬を伝った。そして赤く染まったシーツを郁弥に見せるのであった。小町は、これが初めてのことであることを郁弥に示したかったのだ。
そして小町は、1年前の事件の詳細というものを郁弥に話した。のんが告白しようとしていた男子は、プレイボーイで、あまり良い噂は聞かなかった。だから、のんが告白しようとしていると聞いて、小町は真剣に思い留まるようにのんに話したのだ。のんは、彼は自分には優しいから他の人のようにはならないなどと言って聞かなかった。そして、卒業式の日を迎えたのである。その男子が告白したという噂は、相手がその男子と関係を持ったのと同じ意味に伝わるのだった。小町に告白したという噂もまた、学校中の男子に瞬く間に広まった。それ以来、尻の軽い女だと思われた小町には、その容姿の端麗さもあって、多くの男子に告白されるような日々が続くのだった。初めのうちは、丁寧に告白してくる男子達だった。だから小町も、丁寧に断り続け、貞操を守ってきたのだ。だが男子達の表現は、いつしかもっと直接的に、性行のみを求めるようにと変わっていった。それらを小町はことごとく無視し続けた。何といって良いのかわからなかったのだ。だがこのことは、小町の周りから人を遠ざけていった。お高くとまっているという印象を与えてしまったのだ。そして気が付いた時には親しい友人以外に話す相手を失い、同時に小町から明るさを奪った。
小町がその明るさを取り戻したのは、郁弥との出会いがきっかけである。
「郁弥くんのことを考えていると、明るくなれる自分に気付いたの」
小町の目から涙は消えていた。郁弥とその場を共にしたことものんとの確執の全てを話したことも、小町にすれば喜びであった。その後も2人は、2度・3度と、立て続けに抱き合った。それは、郁弥にも人と深く交わることの喜びというものを味わせるのであった。その喜びの中、一緒にいる今を大切にしたい。2人共同じことを考えていた。
「早く会いたかったの。ずっと郁弥くんのことを考えていたわ」
小町は郁弥に甘えた。郁弥はより一層強く小町を抱きしめた。ほんの数時間、別々に行動した時に、互いに相手のことを考えていた。2人はそれを確かめ合うと、別れを惜しむように、更に抱擁を続けた。そして2人は、明日は朝から一緒に行動することを約束した。
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