秋田編⑧

 小町は、のんの生活というか、昌平ヒルズでの生活というのがどのようなものかに興味津々だった。のんが東京へ出てからというもの、連絡を寄越さないからだ。盆にも暮れにも帰郷しなかった。小町は、1年前にのんと喧嘩をし、まだ仲直りが出来ていない。それが原因で、のんが距離をおいているのではないかと考えていた。もしそうだとしたら、早く仲直りがしたいと思っていた。だから、郁弥の話を聞くことで、そのきっかけを掴みたかったのだ。郁弥は快諾し、かつては毎晩のように開かれていた大宴会の様子を伝えた。その姿は、この6年間の郁弥からは想像が出来ないほど雄々しかった。


「なんだか、皆楽しそうね。いろんな人がいて」


 小町の興味は、初めはのんの生活ぶりにあった。しかしそれは、自分自身のほんの数ヶ月後に始まる東京での生活へと変化していた。そして、その生活の中に、今と同様に郁弥と笑い合う姿というものを俯瞰して見ていた。


「シェアハウスか。私も住んでみたいなぁ」


 小町がそんな社交辞令とも本音とも取れるつぶやきをした時、郁弥のスマホがキンコンと鳴った。従姉からメッセージが入ったのだ。郁弥は、難しい顔をしながら、返信した。その様子を見ていた小町は、何故だか寂しくなってしまった。だから、ワザと軽く尋ねた。


「もしかして、彼女さんからのメッセージだった?」


 郁弥は全力で否定した。自分には彼女はいないことと、相手はただの従姉で内容は業務連絡に過ぎないことを話した。小町は郁弥の言うことをそのまま信じた訳ではない。しかし、安心している自分に気付き、不思議な気持ちになった。その後も少し話し込んだが、漁師達が来店し始めたため、話を中断した。小町が忙しくなったのだ。


「学校が終わったら、また続きが聞きたいな」


 小町にそう言われては、郁弥には断れなかった。それで結局は午後、もう一度会う約束をした。郁弥は、それまでの間、源さんの案内で、秋田市郊外の秘湯を巡ることにした。

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