秋田編⑥

「正直に話してくれたから、もういいわよ」


 この少女は、名を小町という。小町は郁弥を笑って許した。何故だか機嫌が良さそうだった。郁弥はつうにも説明しようとした。2人を見るのが忍びないのだ。だが、小町はそれを止め、郁弥に笑顔を振りまきながら言った。源さんの4つ目の楽しみを奪うこともないでしょう、と。小町が言うには、2人の喧嘩は日常茶飯事なのだ。


「喧嘩をしても直ぐに仲直りするわ。本当に、羨ましいくらいよ」


 それを聞いて、郁弥は安心した。そして、共感した。郁弥にも、そんな友人というか、親戚がいた。従兄の陽介のことだ。何事も張り合い、直ぐに喧嘩となった。ほとんどの場合は郁弥が勝ち、陽介はビィビィと泣き喚いた。それで1日が終わるのだが、次の日にはまた仲良く遊び始め、そしてまた喧嘩となる。そんな昔の日常というものを、郁弥は小町に話したのだ。あまり女子うけする話ではないのだが、この時の小町は熱心に聞いていた。2人はその後も話し込んだ。そのうちに、郁弥と小町の意外な共通点が浮かび上がってきた。この春から大学生になること。そして、通う大学が同じK大であること。母と死に別れていること。血液型。2人はいつのまにか意気投合した。


「えっ、じゃあ4月からは同級生だね。陽介くんと3人で!」


 小町は大声で笑った。郁弥もつられて笑顔になっていた。そんな2人が目に入って、源さんは喧嘩を辞めた。同時につうも辞めた。そして、しばらくは若い男女の笑顔を眺めていた。小町がこんなに笑ったのは久しぶりのことであった。だから、源さんもつうも嬉しくて仕方がなかったのだ。時折2人で顔を見合わせた。少し笑った後は、また郁弥と小町を眺めた。郁弥と小町の笑顔は、朝日に照らされ、2人の老人には眩しかった。

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