秋田編⑤
「源さんじゃな、この不埒者め! あとでお仕置きじゃぞ。待っておれ」
源さんというのは老人の名である。声の主は、近くにある定食屋の女店主で、つうという。待てと言われた源さんは、逃げることもなく律儀につうを待っていた。その間、どう言い訳をしようかと考えていた。湯を上がったつうは大剣幕で、源さんを罵った。その横には少女が1人、恥ずかしそうにしていた。つうの孫娘である。つうは、大事な孫娘の裸を見られたと思い込んでいる。源さんは、干し葡萄しか見ていないと言い続けた。そして、遂には郁弥のことは一切喋らなかった。だが、つうの怒りを鎮めることは出来なかった。
「本当じゃよ。儂は干し葡萄しか拝んでおらん」
「嘘こくでねぇ。小町のも見たであろう」
「見とらんて。本当じゃ」
「源さんは、うちの店には出入り禁止じゃ!」
「なんてこった。今日1日で、儂の楽しみが3つも無くなってしまうとは」
郁弥には、干し葡萄に罵られ項垂れる源さんにかける言葉がなかった。本当は、見たのは自分であると、正直に名乗り出ようとも思ったが、ほんの少しだけ勇気がなかった。そんな夋巡する郁弥に話しかけたのがつうの孫娘だった。
「 ねぇ、本当はあんたが見たんじゃないの」
郁弥はコクリと頷いた。これ以上黙っているのが辛いのだった。全てを話し、ほんの出来心だったと言って謝った。
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