第3話
南の家は俺の家と別の方向なので、途中で別れる。
そして、俺は帰宅して自宅のリビングに入る。
窓際のカーテンが閉められていた。
俺は眉根を寄せる。
相変わらずだが、俺は暗い場所が嫌いだと思う。
原因は分かる。
『母さん.....母さん!!!!!』
あの光景、血、表情。
全てを思い出してしまう。
日が落ちつつある中を歩いていた時に。
飲酒運転の乗用車に跳ねられて全身が動かない中、血まみれになった母さん。
その腕の中でまだ幼かった俺が助かって。
縋って泣いていた事を。
その母さんは俺に手を差し伸べて。
柔和な表情を浮かべていた。
そして俺に最後に言葉を残して。
死んだ。
「.....暗いのは苦手だよ。母さん。あの日の、日の沈む光景とか喪服とか。暫く黒ばかりだったから.....」
俺は歯ぎしりをする。
そんな俺は。
今は全ての悲しみを無くす為に俺は行動している様に見える。
何故なら、俺は。
飲酒運転撲滅運動をしているから。
だけど。
「.....」
実際の所、それは違うと思う。
多分、飲酒運転撲滅運動をしている間だけ。
母さんに会える気がして。
だから、行動しているだけであって。
飲酒運転は無くなって欲しいけど。
自己の都合で行動しているだけな気がする。
欲望を満たしたい。
そんな感じか?
多分、そんな感じだろう。
「.....ハァ.....」
俺は、リビングの奥に向かい。
カーテンを開けた。
そして部屋に夕日を入れる。
外は全く曇りない遠くが見渡せる夕焼けの空があった。
俺はそんな夕焼けの空を見ながら。
ため息を吐いて俯く。
ん?
「.....はるか、帰っていたのか?」
リビングに昔から有るソファ。
その側に、はるかの通学鞄が有る。
つまり、今現在はるかは帰ってきているという事だ。
まぁ、よくよく考えれば。
このカーテンを早めに閉めたのは誰か。
という事になる。
親父と雪乃さんは仕事だから早く帰っては来てないし。
間違い無くはるかだろう。
多分、暗くなるから閉めたのだろうけど。
俺は暗いのは嫌いだ。
「.....」
全くよ。
閉めないでって言っているのに。
俺はまた盛大なため息を吐く。
自室に籠っているであろうけど。
もし会ったら、文句を言おう。
考えつつ。
階段を登りながら。
自室の扉を開く。
で、そこに居た人物と遭遇した。
俺は見開く。
「ファ!?」
「.....え」
栗毛色の髪の毛を持って。
そして俺を猛烈に嫌っている、その女の子は。
丁度、俺の大切な、R18本を見開いた眼差しで赤面しながら見ていた。
ちょ。え?
何やってんの?
え、ちょ、マジで何やってんの?
「.....ちょ。お前.....何でだ.....嘘だろ.....!?」
「.....ちょっと嘘でしょ!?いつも遅いじゃない!何でこんなに早く.....って、きゃあ!!!!?」
はるかは。
俺を睨みまくって。
ギョッとしてから、R18本を猛烈に紅潮させて背中に隠す。
バレてんだよ!!!!!
ってか、なんで俺が睨まれるのか分からん!
マジでなんで!?
「おい、ちょ!?はるか!なんでそんな本を真剣に見てんだ!?俺の部屋で何やってんだ!」
「は.....はぁ!?知らないわよ!.....私は.....その.....この変な本を偶然に見つけたから!!!!!」
嘘吐くんじゃねぇ!?
バレバレだろ!
「いや、お前は嘘が下手だな!ベッド下に隠してあった筈だぞ!その本!」
「は、はぁ!?そんな事言えるとか変態に極みが掛かってるわね!最低!」
行ったり来たり!!!!!
おいコラ!はるか!
言い訳ばっかりじゃねぇか!
って言うか、義妹にこんな趣味が有るなんて!?
初めて見たぞ。
有る意味どう対処したら良いんだ!?
俺の慌てふためく様子に。
はるかは。
プルプル震えながら。
「バカァ!!!!!」
俺の大切なR18本を俺に叩きつけて。
その様に大きく叫んでから。
自室に駆け込んで行った。
ちょ、え!?
馬鹿って何!?
俺の事!?
え、俺が悪いの!?
「何だったんだ.....」
はるかが飛び出して行ったユラユラ動く扉を見つつ。
自室に残された俺は。
顔に命中したR18本を見つつ。
その様に呟いた。
☆
『.....誘拐犯は捕まったそうですね。山崎さん.....』
「.....お前達、一体どうしたんだ?」
飯を食う手を止める。
親父がその様に聞いてきたから、だ。
確かにこの気まずさはかなりのものだと思う。
朝よりも酷いな。
俺は盛大にため息をついた。
「.....」
「.....」
俺は横をチラ見する。
飯を食いつつの無言のままの、はるかは。
僅かに頬を赤くしている様に見えた。
その様子を見てから、飯を俺は食べる。
「また、はるか、と喧嘩したの?透さん」
「いえ、違いますよ。雪乃さん」
俺は答えつつ、困惑していた。
あれは幻なんじゃ無いか?
今でもその様に思える。
1つ下の義妹が。
大嫌いである筈の俺の部屋に忍び込んだ挙句。
ベッド下にあった筈のR18本を真剣に読んでいるなんぞ。
普通、あり得るか?
いや、無い。
あり得ないと思う。
普通に考えて。
「.....」
俺は、はるかをもう一度、尻目で。
顎に手を添えて真剣に考え込む。
次の瞬間。
バキィ!!!!!
「.....ぐおぁ.....!」
真横に居た、はるかに。
思いっきり脛を蹴られた。
何だとこの野郎。
脛かよ。
クソッタレめ。
涙目で思っていると。
(カンガエコムナ)
その様な強烈な視線を。
感じ取った。
俺は冷や汗をかいて。
目の前に有る、雪乃さん特製のサバの味噌煮をご飯と共にかき込んだ。
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