第二十六章 告白?

(……あああぁぁ、馬鹿野郎がああぁぁぁ。なんで、こんな話をしちまったんだ……。それも、たぶん好いてる子に……)


 話し終えたあといまだ膝枕状態の俺は、かなり後悔していた。


 ……自分の過去を語ってて思ったが俺、相当情けなくないか……。

 穴があったら、入りたい気分だ。



「ふんふん、なるほど~。つまりエルストはそのグレイさんのことが好きで、彼女さんが旅をしている間ずっと待っていたんだけど、彼女さんに手紙で好きな子が出来たかも知れないって伝えられて、すごく落ち込んじゃって現実逃避して、けどそのあと面と向かってフラレちゃったんだね。それでショックを受けて故郷を飛び出したと」


 ……さらっとまとめられてしまった。だがまあ、簡潔に言うとそんな感じか。

 はたから聞くと、やっぱり好きな子に聞かせる話じゃないよなぁ……。


 この話を聞いたサラは腕を組んでコクコク頷いていたが、少し考え事をするように目を閉じて唸ったあと、気軽に語り始めた――。



「わたし、子供のころに親が両方とも死んじゃってるんだけど」

「……だから、そういう重いことをさらっと言うなって……」


 サラは朗らかに笑いながら言葉を続ける。


「アハハ、ごめんごめん。それでね、わたしが物心つく前に親は病気で死んじゃったんだけど、わたしは全然寂しくなかったんだ。おじいちゃんがいたし、里の皆もよく面倒を見てくれて……みんな大好きだし、わたしは里の皆が家族だと思ってる。……里を出たっきり、帰ってこない竜もいるけどね」


 寂しそうに笑いながらサラは話を続ける。


「わたしにとってはみんな家族だから、あの里は自分の家みたいなもの。……戦って負けたのならそれはしょうがないよ、強い方が生き残る世界だから。でも、戦えない竜たちを傷つけようとする人たちなら……わたしはやっぱり、人間を好きになれなかったと思う」


 でもね、とサラは続ける。


「最初にエルストと会えたから、わたしは人間を嫌いにならなかった。団長さんたちやアメリアさんたちと話してもやっぱり、わたしは人間を嫌いにならなかったよ。……わたし、外の世界にあこがれがあったけど、人間にも同じくらい興味があってね。外の話をしてくれる竜たちが人間のこと大好きだったり大嫌いだったりするから、一体どういう生き物なんだろうっていつも想像してたんだぁ」


 サラが嬉しそうに笑う。


「――エルストが里のために頑張ってくれたから、わたしたちと仲良くしてくれたから、わたしは人間が好きになれたんだよ。エルストが里と人間を繋げてくれた……だからエルストには、すっごく感謝してるんだっ! わたしが外の世界を好きになれたのは、エルストのおかげなんだよ――」


 とても優しい目つきで俺を見下ろすサラのその言葉は、俺の胸にスウッと沁み渡っていった――。


 俺も――。


「……俺も、古竜の里には感謝してる。なんて言うかこう、俺は故郷を飛び出してから、何にも興味が持てなかったんだ……心が死んだように動かなくて。でもなんつうか、里で体験したことは全部楽しかった。びっくりしたよ、こんなにワクワクすることがあるんだなって……。おかげで今は少し、前向きに生きてる気がする――」


 こんなに楽しいことがあるなら、まだまだ未来に期待できると思えた。


「サラのおかげだ。あの遺跡で、サラが俺を見つけてくれた。俺を信じてくれた。だから俺も、サラにはすげえ感謝している――ありがとう」


 サラは俺が見てきた中で、一番きれいな笑顔を浮かべ言った――。


「――こちらこそ、ありがとうエルスト――」




 しばらく二人、草原で静かな時間を過ごす。

 正直サラの膝枕は恋しいが、いつまでもこうしているわけにもいかないか。


「サラ、ありがとう。今度こそ大丈夫だ」

「わかった。じゃあそろそろいこっか」


 二人して地面から立ち上がり、服の汚れをパンパンと払い落す。

 今から急いで、団長たちに追いつけるかどうか――。



「わたしエルストとだったら、家族になってもいいなぁ」



 …………。

 は?

 


「…………サラ、お前、なにを言って」

「うん、ちょっと恥ずかしいけどわたし、本物の家族にあこがれててさ。里のみんなも家族だと思ってるけど、じゃあ本物の家族はどんなに素敵なんだろうって。エルストとだったら絶対いい家族になれるって、いま思ったんだ!」


 ……ええと、これは、告白? ……サラの方から?

 サラから告白される要素なんて、今まであったか?

 

 いや、今の話だと、サラは俺にすごく感謝しているようだった。

 直接的な関係はないが、そういった感情が恋愛と結びついても、不思議ではないのかもしれない。よく分かんないけど。


「……サラ、それはもしかして、告白?」

「え? う~ん、告白といえば、告白かなぁ」


 煮えきらない返事。だが、サラは絶対に告白と言った。

 大事なことだから二回言う。告白と言った。


 この際愛の告白かどうかの真偽は置いておくとしても、俺と家族になってもいいと言ったことに、間違いはない。つまり、それだけ俺を好いてくれているということ。

 

 ――それだけで俺は、天にも昇るような心地になった。世界が輝いて見える。

 フワフワした多幸感で、地に足が付かない、飛び上がらんばかりだ。

 この上ない喜び、恐悦至極でまことに有り難き幸せだ――。


 ちょっと自分でも混乱していると思うが、とにかくそれだけ嬉しかった。



 ……同時に、いろいろと吹っ切れた。覚悟が決まったように感じる。


 これからもしもグレイと対面した時、俺自身どういう反応をするのか分からない。もしかしたらまた、ぶっ倒れるはめになるかもしれない。

 だが、今度ばかりは逃げ出さないと今決めた。


(ようやく、グレイのことが吹っ切れた気がする)


 俺が憧れた幼なじみが、グレイが、敵に回るというのなら、ここで彼女を超えてやる――。


 正直、戦ってグレイに勝つイメージは全く思い浮かばないが、べつに正面切って戦う必要はない。古竜の里を守れれば、それで俺の勝ちだ。ならば勝算はある。



 ……俺は古竜たちの、サラのために戦う。

 勝負だ、グレイ・ハーネット――。

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