第二十章 ギルドシュトラ傭兵団
俺達グリー傭兵団は道が狭く、少人数でしか移動できない渓谷(だからこそオーレス国の見張りもいない)を抜け、敵傭兵団の本拠地にほど近い、ギルドシュトラ傭兵団が指定した待ち合わせ場所に到着した。
草原であるその場所にはすでに天幕が張られており、その前に今回の交渉相手であるギルドシュトラの傭兵たちがずらっと並んでいた。
かなりの人数。連れてこられるだけ連れて来たんだろう、なかなかの威圧感だ。
対峙する二つの傭兵団。その中から、両陣営の中央へと歩みを進める四つの影があった。
グリートギート傭兵団とギルドシュトラ傭兵団――それぞれの団長、副団長たちだ。
団長たちはちょうど中央で足を止め、そこで挨拶を交わす。
「数ヵ月ぶりだな、グリートギート傭兵団の団長。相も変わらず無駄にでかい図体で、暑苦しいことだ。身だしなみにはもう少し気を使った方がいいぞ、まるっきり熊にしか見えん」
「おう、久しぶりだなギルドシュトラ傭兵団の団長。てめえこそ脳筋のくせに、口調だけ取り繕っても見苦しいだけだぜ。脳筋は脳筋らしく、戦場で暴れてるのがお似合いだ。……アメリアさんも、こんなバカのお守り役なんて押し付けられて大変でしょう。もしこいつに嫌気がさしたらいつでもうちの団に来てください、歓迎しますよ」
向こうの団長の傍に控えたアメリアさんというらしい妙齢の女性が、話しかけたうちの団長にお辞儀し言葉を返す。
「お久しぶりですグリートさん、お元気そうで何よりです。せっかくのお誘いですが、私はこれでもギル団長に恩義を感じておりますので」
「ぐぬぬ……そ、そうですか……」
「団長、抑えて抑えて」
うちの団長がこぶしを握り悔しがる様子を、ギルドシュトラ傭兵団の団長ギルさんが勝ち誇ったような顔で眺めている。
……なるほど、犬猿の仲と言うのもうなずける、ひどくケンカ腰な挨拶だった。
「とりあえず、こんなところで立ち話もなんだ。天幕を張っておいたから、その中で話をしよう。あまり大きくないから、大人数では入れないがね――」
(あ~あ、こりゃ荒れそうだ……)
ギルさんに言われた通りに少人数で天幕の中に入り、用意されたテーブルに腰掛けた団長以下俺達は、ギルドシュトラ傭兵団にいきなりとんでもない要求を突きつけられていた。
「――単刀直入に言う。今回の話、私達にも一枚噛ませろ。具体的にはグリートギート傭兵団と同じように、古竜たちと盟約を結びたい。古竜の素材なんていらないから、お前たちと同等か、それ以上の同盟関係が欲しい。それがギルドシュトラ傭兵団からの要求だ」
ギルさんが言い終わると同時、ピリピリとひりつく様な空気で場が満たされる。
――団長だ。
憤怒か、殺気か、もしくは両方か。
身震いするような気迫が団長から発せられ、場の空気を一触即発な状態へと変える。
「……おいおい、いくらなんでも、そいつは筋が通らねえだろう。最初に古竜の里と交渉し、同盟の約束を取り付けたのは俺達だぜ? それをあとからしゃしゃり出てきたお前らが、しかもうち以上の同盟関係だと……寝言は寝て言え。報酬に関しては多少色をつけてやってもいいから、それで満足してろ」
あらぶる感情を押さえつけるように、団長が努めて冷静に言葉を返す。だが――。
「グリー傭兵団とうちのシュトラ傭兵団の規模は同じくらいだ。だったら報酬も、それ相応の物を用意してしかるべきだと思うがね。だいたい、今回の作戦はうちの協力なくしては厳しいだろう。なんなら、うちが主導で今回の作戦を指揮してやってもいい」
あくまで静かな口調で上から目線の姿勢を崩さないギルさんに、ついに団長の、堪忍袋の緒が切れた。
「……上等だ。うちとお前らが同等なんて世迷言をほざくその頭、ぶん殴って叩き直してやるよ……!」
「相変わらず、野蛮人だな。どうやら、痛い目見ないと分からないようだ……!」
両者とも立ち上がり、にらみ合う。いまにも殴り合いを始めそうな雰囲気だ。
(う~ん、俺はシュトラ傭兵団が協力してくれるなら、別にそれでもいいと思うんだが……)
その時、副長たちがそれぞれ自分の団長を止めにかかった。
「ちょっと団長、いい加減にしてください! そんなことしている場合じゃないですから!」
「ギル団長もですよ。衝突はなしって、言いましたよね? 交渉するならするで、落ち着いて話し合ってください。拳で語り合うとか、話が進まないからやめてくださいね」
うちの副長は怒れる団長を羽交い絞めにして止めていて、向こうのアメリアさんはギルさんを言葉でやんわり押しとどめていた。すげえな、アメリアさん。格が違う。
「……しょうがねえ。ここは傭兵の流儀に
「……ああ、意見が割れたら力づくで決める。この場合は一騎打ちだな、グリート」
……やっぱり、こうなったよ……。
ほんと野蛮だよな~、傭兵って。まあ俺も傭兵なんだが。
「……まあしょうがないですかね。このまま議論しても平行線を辿りそうですし」
「拳で決着をつけると言うなら、仕方ありませんか……。それが傭兵の流儀ですものね」
二人の副長も、あまり気は進まないが納得しているようだ。
俺の隣に座るサラも、この先に起こる出来事に期待しているのか、目をキラキラと輝かせている。
一騎打ちなんてめったに見れるもんじゃないし、気持ちは分かるけどな。
(代表として敵の一番強い奴と戦うなんて、俺はごめんだが)
やる気満々な様子を見るに、シュトラ傭兵団からは団長であるギルさんが出るのだろう。グリー傭兵団からはおそらく団長が出る。自慢の
「よしでは、外に出ようか。……グリートお前、ちゃんとあのバカでかい戦鎚は持ってきてるのか? お前の馬鹿力に耐えられる武器なんて、うちは用意してないぞ」
「誰にもの言ってんだ、持ってきてるに決まってんだろ。……だがまあ、今回出番はねえだろうけどな」
「なに?」
二人が立ち止って向かい合う。
「どういう意味だ?」
「……一騎打ちに出る奴は、その傭兵団の中で最も強い傭兵が選ばれる。俺が出てもいいんだが、最近うちに有望な若いモンが入ってな。古竜の里を見つけて、そこにいる竜人の嬢ちゃんを連れて来たのもそいつなんだ。だから今回は、その若者に一騎打ちをゆずってやろうと思ってる」
――んん、団長は、なにを言ってるんでしょうかね?
なぜか、雲行きがめちゃくちゃ怪しい。
「エルスト、団長さんこっち見てるし、今のってエルストのことじゃない?」
現実を突きつけるのはやめてくれ、サラ。
いま目一杯、目を逸らしてんだから……!
だがそんなことをしても目の前の現実が無くなるわけもなく、ついにその声がかかってしまった――
「エルストっ、お前の出番だ!! この脳筋に、目にもの見せてやれ!」
……団長、俺に厄介事を押しつけるのは、やめてくれませんか……。
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