第十五章 グリートギート傭兵団
傭兵というのは単純な生き物だ。
生きる糧を得るために、自分の命を懸ける。
傭兵の中には戦場が性に合っている、どころか戦いそのものが生きがいであるという戦闘狂もいるが、ほとんどの奴は生きていくために、唯一自分が持っているものを懸けているに過ぎない。食いっぱぐれた時でもそれを懸ければ大抵仕事は見つかるからだ。
逆に言えば、俺達は対価がなければ仕事をしないし、命あっての物種である以上あまり無理がある仕事を受けることもない。こういった気風がお抱えの兵士たちとは違うところだな。勝ち目のない戦いはしない。
だが、命を懸けて金を貰うというのは因果なもので、いつのまにか命と金貨の価値が同等のものと錯覚するようになる。
それはつまり、得られるものが大きければ大きいほど、どれだけ危険なことでも命を懸けるのを躊躇わなくなるということだ。
こういったところが傭兵が無法、荒くれ者と呼ばれる原因だと思う。実際野蛮だしな。
俺達は対価があるから、命を懸けられる。
そしてもし古竜の里を攻めそれが成功した場合、その対価は莫大なものとなる。
古竜の体からとれる素材は、それだけの価値があるのだ。
欲に目がくらんだ連中は、危険性も
その点、グリートギート傭兵団は他と比べるとそれなりに規律を守った集団だ。
あるいは、対価を得るために規律を守っている集団であるとも言える。
傭兵団の信用というものは、そのままダイレクトに報酬に反映する。
傭兵団における信用とはどれだけ無法者でないかだ。
例えば敵対勢力内における町や村での略奪行為。これは傭兵団だったら大体どこでもやっていることだが、傭兵を雇う側としてはあまり余計なことはしないで欲しいというのが実情である。ひどいところは味方の勢力内でも略奪するからな。
雇う側としても、野盗のような連中よりは規律のある傭兵団を雇いたいと思うものだ。命令を下す際も安心感が全然違うし。
グリー傭兵団はその信頼を得るために、国内で信用を積み重ねてきた。
今ではクエルト国内ならかなりの信用を誇っており、今回の戦争でクエルト国側に集った傭兵団のまとめ役も任されている。
だけどその信用も、今回の作戦でいよいよ失墜するかもなあ。
――言い出したのは俺なんだけど。
団長たちを連れて森を抜け、古竜の里に入った俺は、そのままサラの爺さんである老竜と最初に対面した超巨大大木の中で再会。すぐに里の長たちとグリー傭兵団の面々による会合が始まった。
そのあとは自分でもびっくりするほど話はとんとん拍子に進み、話しあって打ち解けるうちに一頭の古竜が『じゃあわしの飛ぶところを見せてやるか!』と陽気に宣言。今は外に出て、グリー傭兵団全員で宙を軽やかに舞う古竜を見上げていた――。
空を見上げながら、副長が感嘆した様子でつぶやきを漏らす。
「すごいですね……、実際に飛び回っているところを見ると、想像していたより遥かに有能なことがよく分かります……。戦場での奇襲力、破壊力は言わずもがな、空を飛べるなら情報の伝達も馬などよりよほど速いですし、陣を張る場合も、資材や兵糧を古竜の背に乗せてもらえるのなら輸送費は安く、スピードは跳ね上がります――もちろん、そういう扱いを古竜側が許容してくれるのならば、ですが」
「確かに、そうすると便利な乗り物として扱うことになりかねんからなあ。そこは交渉と――あとは信頼関係次第だな」
団長がニヤリと笑いながら言葉をつけ足す。
どうやら、古竜と同盟を結ぶことを本格的に決めた様子だ。
その後、会合を再開、副長が中心となって契約の詳細を詰めていく。こういうことに副長はめっぽう強いからな。逆に団長は役に立たない。
契約の詳細な内容についても
『ほっほっほ、こんな簡単に話がまとまるとはのう! ヌシよ、これで作戦の半分は成功といったところか』
「……まだ準備段階ですけどね」
『そうだとしても、それが成功したのはヌシの信用があってこそじゃろう。たしかに、まだどうなるかは分からん。じゃが、ヌシがこの里のために心を砕いてくれたこと、ワシは生涯忘れんよ――』
そう言ってその巨体を伏せ、深く頭を下げる老竜。
……っていやいや、アタマ、頭上げて老竜!
なんかすげえこそばゆいから! そんな大それたことしてないから!
というか、迫力満点の顔面が目の前にあって正直怖いから!!
「いやいやいや、頭を上げてください古竜の長! 俺にそんなこと言われても……」
『なに、ワシらが礼節を知らぬ化物と侮られても困るのじゃよ。礼は素直に受け取るがいいぞ、エルストや――』
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