第5話 夜の公園
「過剰防衛だ ―――ッッ!!」
そんなツッコミと共に
俺は思わず彼女の手を引っ張り、
気がつけば夜の公園へとたどり着いていた。
彼女をここまで連れてきた理由は2つ。
1つはもし彼らの仲間に見つかってしまった場合の報復が怖かったのと、もう1つは倒れている人間に何度も繰り返し蹴りを入れている彼女の事を不審に思った人に通報などされやしないかと不安になったから。
「ここまでくれば大丈夫…」
全速力で走ったおかげですっかりとあがってしまった息をこらえながら、そう振り向いた俺は自分の手が無意識に彼女の白くか細い手を握りしめていた事に気がついた。
「ご…ごめん!
急いでいたからついッッ!!」
思わず彼女の手を振りほどき、自分の後ろで手を組んで照れる俺。
「ううん!全然大丈夫!!」
柊さんも心なしか顔を赤らめてうつむいてしまっている。
しばし流れる沈黙。
「えっと…こんな見ず知らずの方に助けていただいて…なんとお礼を言えば良いか…」
柊さんはうつむいて顔を赤くしたまま
鈴の鳴るような美しい声でそう言った。
「いやいや!柊さん!俺だよ!
同じクラスの一ノ瀬だよ!覚えてない?」
普段着だから気がつかないのか。
俺は慌てて被っていたニット帽を脱ぎ、急いで乱れた髪を手櫛で馴染ませると、柊さんに見えやすいように自分の顔を向けてみた。
「一ノ瀬…君…?」
柊さんはアゴに手をやり、
やけに深刻そうな表情でしばらく考えていた様子だったが急にポンっと両手を打つと、
「あぁ!!一ノ瀬君ね!
あの一ノ瀬君ね!あぁ!あの!
あの一ノ瀬ね…!」
と何故かニヤニヤしながら
チラチラとこちらを見ていた。
…ってか
「あの」って何だ―――ッッ!?
絶対分かってないでしょ!!
この人!!
まぁ校内だけじゃなく、
その美しさが地域レベルで有名な柊さんからしてみれば、こんなどの世界にもいるような地味顔で平凡な生徒の事なんて、はなから覚える気なんてないのかもしれないけれど。
半年以上も同じクラスにいるというのに、
全然覚えてもらえないというのも
それはそれでショックな話である。
「…ってかビックリしたよ。
柊さんがあんなに強かっただなんて。
学校の時のイメージと全然違うから…」
ヒュンッッ
俺がそう言いかけた瞬間、
柊さんの表情が突然ガラリと変わり
彼女は自分の側に立っていた鉄製のポールを勢いよく引き抜くと、そのまま両手で俺の喉元に向かって構えた。
「…この事を誰かに話したりしたら
ただじゃおかないから。」
そう呟いた柊さんの声は一段と低く、
美しかったはずの瞳の中は
すでに殺意で満ちていた。
俺は無意識に両手を胸元で構えると、
彼女がこちらに向けているポールの先にくっついている「飛び出し注意」という文字を眺めながら、コクリと一つ唾を飲んだ。
突如流れる緊張と
俺の頬をつたう一筋の汗と共に
再び流れはじめる沈黙…
その静寂を突き破ったのは…
ぐ~きゅるるるる…
何の事はない、
彼女のお腹の音だった。
「えっと…
とりあえずコレでも食べる…?」
俺はポケットの中に入れたままにしていた
オーナーの奥さんからもらった梅おにぎりを
そっと彼女に差し出した。
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