第2話 電話の正体

私の名前は

ひいらぎ 澪奈みおな

自分で言うのもなんだが

その美しい名前の響きからも容易に想像できるように近年まれにみる類いまれなる美少女だ。


私の家系は、何故か代々粒揃いの美形ばかりで構成されているようで、

私の妹なんて今や人気ファッション雑誌

『エゴイスト』の専属モデルだし、

友達…はあまりいないけど、周りの人達もだいたい美形。もちろん私の両親も美形だし、お祖父様お祖母様だっていまだに美形。ついでに言うなら使用人から庭師にいたるまで私の周りは全て美形でまとめられていた。


そんな私がいつもの習い事の帰り道、

人通りの少ない細長い路地を

歩いていた時に…


一人の若い男につけられている事に気がついた。


その男は毛先という毛先からキューティクルという代物が全面的に壊滅したガッサガサの髪に同じくガッサガサの肌をひっつけており、そして申し訳程度に顔面についている深海魚並みに退化した小さな瞳がやけに印象的な、いわば私のいう『美形』とは数億光年もかけ離れてしまったくらいに致命的な不細工であった。


そんな彼の存在を確認した瞬間…

私はすぐさま彼の目的を理解した。


…こんな時間に

一人で歩く女の後を

こっそりコソコソとついてくるなんて…


…こいつぁ

変態に違いない!!


…と。


チラリと見えただけだが、

その男は服のセンスすらも最悪だった。


私はそんな彼の姿に思わずブルッと身震いをすると、即座にその男を追い払う秘策を練る事にした。


まずは携帯スマホで友達…はいないから仕方がなく『117』に電話して誰かと話しているフリをする。


そうすればあの男も

電話中に手を出してくるなんて無謀なマネなどしてこないだろう。


あとは電話口での話が途切れてしまわないように、なるべく明るく話続ける事を心掛けた。


ちなみに、右手に隠し持っている手鏡を使いながら後ろからつけてくる男の動向を常にチェックすることも決して忘れてはいけない。


…このまま諦めてくれれば良いのだが…


万が一家までつけられて

後日待ち伏せなどされてしまうようになってしまえば、それはそれで面倒な事になってしまう。


そんな事を考えながら私は歩き続けた。

だが男は一向に諦める様子がない。

このままでは家の場所がバレてしまう。


家の一番近くにある外灯に差し掛かった頃、

私は意を決して一つの賭けに出ることにした。


私は外灯の下で立ち止まると、

隠し持った手鏡で背後からジワジワと近づいてくる男との距離をはかりながら、徐々にスマホの音量をあげ、わざと電話口の内容が外に漏れてしまうように細工を行ってみた。



『ピッ…ピッ…ピッ…


…ポーーーーン…


午後23時46分52秒をお知らせします。』



そのアナウンスを聞いた瞬間、

手鏡の中の男の顔が急に強ばり

そしてそのまま動きが止まったのが見えた。


私はその姿を確認すると黙って携帯スマホを構えたまま立ちすくんだフリをして、手鏡を使って彼の様子を伺い続けた。


さぞかしこのアナウンスに向かって楽しそうに話続ける私の姿が恐ろしかったのでしょう。


馬鹿め!

両親共働きで、

妹と違って友達が全くいない私にとっては

こんなもの…普段から日常的にやっているただの一人遊びにすぎないのだ!


そんな私の姿に恐れをなしたその男は

私に気づかれないようくるりと向きを変えて

この場からこっそりと逃げ出そうとしている。


…今だ!!


私は彼が後ろを振り向いたのを確認すると、

自分の両手で自慢の美しい髪をぐちゃぐちゃに掻き乱し、スマホの音量を下げながらそのまま彼の背後に立つことにしました。


彼は必死に逃げていたつもりのようですが、彼の両足はそれはもうガタガタと面白いほど震えていて、全くといっていいほど歩けていなかったのでいとも簡単に追い付く事ができました。


そして私は彼の背後で必死に気配を消しながら、彼の真後ろで携帯スマホをスピーカーに変え、音量をマックスにした瞬間…


『午後23時48分ちょうどを

お知らせします。』


奇跡的にも

ちょうどいいタイミングで、これまたちょうどいいアナウンスが流れました。


自分の真後ろでアナウンスがなった事に

驚いた彼がゆっくりと振り向き出した瞬間に

私は自慢の変顔、『必殺白目剥きブツブツ』を披露いたしました。


先程髪を掻き乱しておいたおかげで怖さ倍増です。しかもこの外灯はブルーライトを使用しているので、いつもに比べてより一層肌が蒼白く見えちゃうマジック。


ちなみにブツブツは何を呟いたらいいのか分からなかったので、とりあえずその時にふと思い付いた『ヒポクラテス』という言葉を繰り返し唱えておく事にしました。


「ぎぃやぁぁぁぁ~~~~ッッ!!」


あり得ないほどの悲鳴をあげて

ものすごい勢いで走り去っていく

彼の背中に向かって私は思わず呟いたのです。


「はぁ…

これでまた無駄なストーカーを一人

減らすことができたわ。」


…と。


そう呟きため息をついた彼女の視線の先には、自宅まで続く道程の端に等間隔で静かに身を隠し、ジッとこちらを見ている数十人のストーカー達の姿があった。


「これ以上コイツらを増やしてたまるか。」


この全てのストーカーを撲滅するまで

彼女の闘いは続いてゆくのであった。

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