同居人 もぐら


きつねさんが去って数カ月……

二人の生活に慣れてきた頃に、今でも話題にのぼる問題児はやってきた。


シェアハウスというものは通常の賃貸よりも初期費用が安く、審査が緩い。

そのため、なかなかな事情を抱えた入居希望者も多い。


もぐらちゃんは、そんな「なかなかな事情」――同時期に入居を希望していた子供連れのシングルマザーさんに対し「事故が起きた時に責任を取れない」と、まともな回答を返すような子だった。


が、親の連絡先を書くことを拒む。


我が家では、面接の際に必ず「緊急時に連絡が取れる近親者」を記入して貰う。

20歳だろうが30歳だろうが関係ない。全員必須だ。

当人たちには災害時や病気になった時のため、と説明しているが……

実際は「身元と金銭を保証してくれる身内がいるか」の審査だ。

御存命にも関わらず親の連絡先を書けない子は、何かしらの問題(家出や金銭トラブル)を抱えている可能性が高い。祖父母や弟妹を書く子については、風俗絡みの仕事をしている場合が多い。

まぁ、大方は本職で培った色眼鏡なのだが、今は割愛する。

本人の事情は受け入れるが厄介な問題はNG、それが我が家だ。



もぐらちゃんに関しては、家出、金銭トラブル、風俗、どの雰囲気でもなかった。

入居したいのであればと事情を聞けば、ご両親との折り合いがよろしくないとのこと。流石に不安に思い連絡をしたところ、親御さんは至って真っ当で、どうしてか「うちの子でも入れるんですか?」的なことを言う。


一抹の不安を覚えたのは確かだが、気持ちはわかるし「他人には干渉しない」が我が家のルールだったために、私は彼女を、そのまま受け入れた。



現在は市に使用不可令を食らい、倉庫と化している一室--

ぽんの部屋の隣に、もぐらちゃんは入居していた。


2ヶ月の同居期間中、彼女の姿を見たのは3回。

深夜のゴソゴソという物音と、うさぎさんの「夜中にめっちゃ、レンジのチンッ!て音がする!何か沸かしてる!」という発言でのみ、生存を確認。


何をしているのかと不思議に思っていた矢先、判明した事実は……


彼女は、超ド級の、アラシッ●だった。


私もうさぎさんも、過去にこの単語を使ったことはない。

彼らが嫌いというわけではないし、彼らのファンに偏見があるわけでもなく、ディスるつもりもない。

それでも使いたくなるほどに、もぐらちゃんは、アラシッ●だった。


いつの間にか持ちこんだらしいテレビ2台を駆使し、オシメンの彼が映るありとあらゆる番組(CM・番宣含む)を録画。

それは日中夜に及び、睡眠時間は1時間だと言う……


「最近人気が出てるからか、録画が間に合わなくて!」


オシメンは誰なのかと聞いた時、初めて自らの想いを語ってくれたもぐらちゃんは、まるで別人のようにハツラツと輝いていた。



ついでに気付いてしまった事実、もぐらちゃんは、潔癖症。


うさぎさんと二人の時は一週間で二ロールほどだったのが、一日に一ロールのペースでトイレットペーパーが無くなる。流石に、減りが早すぎる。

酒を飲みながら二人でありとあらゆる事態を考え、思い至ったのは「便座にペーパーを敷いている」

その時から、我が家のトイレには除菌シートが常備されるようになった。


それでもここは、自由なドクジョが集う家。

各々好きに過ごせばいいさと、放置すること二ヶ月。


三人目にして、様々なことを学ばせてくれた同居人、もぐらちゃん……

彼女は「ここ、電波が悪いのか映像が時々飛ぶんです。だから別の所に行きます」と言い残し、我が家を去った。



貴方は今でも、彼を追いかけているのでしょうか。

もうすぐ新しいドラマ、始まるね。



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