同居人 うさぎ


ここからは、プライバシー保護のために仮名を使わせていただく。


まずは1人目の同居人、うさぎさん。

我が家の最年長で、シェアハウスが始まった当初から共に暮らしている。

いつからか、ずぼらでヒキコモリなぽんに代わり家の管理の半分を請け負ってくれているのだが……彼女が、他の家で言う、教祖的存在だ。

ただ、我が家には「教祖」は似合わないので「魔王」と、させていただく。


彼女とは、数年前にハマっていたジムで出会った。

会話をしたこともなければ、どちらかと言えば苦手な部類だなぁと思っていたうさぎさん。(見た目や喋り方がキツそうだった)

シェアハウスの広告をインストラクターに見せていた時に「え、どこ?入りたい!」と声をかけてきて、即決で我が家に来ることを決めた。


そこから4年、共に暮らしているのだが……

彼女はなかなかに、強烈だ。


我が家には、10畳ほどの広さの共用リビングがある。

正確には、あった。

現在うさぎさんの私物と化しているリビングは、基本、扉が閉ざされている。

他の入居者からは「魔王の部屋」「開かずの扉」などと言われていて、余程の無知か猛者以外は立ち入ることができない。


シェアハウスの鉄の掟「共用部を私物化しない」


そんなものはねぇよと言わんばかりの、有無も言わせぬ態度に挫けた同居人は数知れず……管理人である私も、手伝って貰っている負い目からか言及できない。

一度は頑張ったものの、見事に折られた。とんだヘタレだ。



それでも「仕方ない」と、みなが諦めてしまうのは、彼女が一番、我が家を愛しているからなのだろう。



人に対して怒ることが苦手な私に、彼女は「嫌われるのは私でいいよ」と言った。

新しい子が入るたび細かなルールを教え、時には怒り、手を貸してあげる……

これは、誰にでもできることではない。



更に言えば、私はうさぎさんの生き方が大好きだ。

人に合わせることをせず、我が道を行く。

ここのでの生活はもちろん、仕事、趣味、恋愛、全てにおいてが自由なうさぎさんに、私は4年前、背中を押されて独立を決めた。

我が家の指針が「ドクジョ」となったのも、彼女が原因だ。


言葉にすれば簡単に見えるが、人に左右されず自分の意思を貫き通すことは、余程の自信が無ければできない。

「そりゃあ悩んだ時期もあったよ」とも聞いたが、いつも飄々と笑っている彼女からは想像ができなかった。

その自信も、実力がなければただの張りぼてだ。


職業は伏せさせて貰うが、うさぎさんはモノを作るプロだ。

腕一本で食べ代を稼ぐことができる、自由な女性……多分、世のドクジョが憧れる人物像そのものだと、私は思う。



我が家に君臨する魔王の、開かずの鉄扉を開こうと試み、討伐された同居人は数知れない。

それでも全員が「生き方は好き」と言っていたあたり、彼女にはやはり、カリスマセイというものがあるのだろう。



いつか、開かずの扉が開く、その日まで……

私は彼女の背中を追い続ける。



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