赤い糸

さとけん

赤い糸

「愛してる。結婚しよう」

三年も付き合った彼女に僕はプロポーズした。それと同時に、耳うるさいアラームが、手首に巻いている腕時計型のAI端末から鳴り響く。

ディスプレイを見ると『婚姻不可!』と表示されていた。

「やっぱり祝福されていないみたいね、私達」

彼女は言いながら、目にうっすらと涙を浮かべ遠くを見つめている。


配偶者最適化法、巷では『赤い糸』と呼ばれている法律が施行され、結婚相手はAIによって管理される事になった。

罰則はないので、好きな相手と結婚する事は不可能ではない。だが、生まれてくる子供が公立教育を受けられない、病院での保険診療が受けられない等の不利益が無数にあり、婚姻統制といえる法律だった。

AIが選ぶパートナーや反対する相手にも完全な合理性があった。

遺伝子の相性診断によって、生まれてくる子供の知能・芸術性・身体能力・健康という項目が最大化される相手を推奨される。

逆もまた然りで、特にガンにかかりやすい等の遺伝的な問題がある場合、『婚姻不適性』として、事実上結婚は不可能となる。

付き合ってすぐに分かった事だが、僕と彼女は『婚姻不適性』だった。


「大変なのは覚悟してる。だけど僕は何があっても君を守るよ」

「気休め言わないでよ。『婚姻不適性』のカップルがどれだけ悲惨な目に合うか、貴方も知ってるでしょ?」

「もちろん知ってるさ。小学校から散々教えられたからね。だけど、どうしても君が好きなんだ。愛しているんだよ」

言い終わらないうちに、僕は彼女を強く抱きしめた。

いつの間にか雪が降り始めていた。


「結婚してくれる?」

両手で彼女の肩を掴みながら、僕が不安げに聞くと、彼女は泣きながら満面の笑みを浮かべて小さく頷いた。


「またカップル成立ですね」

「ああ、凄まじい勢いだね」

巨大なモニターを見ながら男二人が立っていた。

「この調子だと、もうすぐ婚姻率は80%を超えますな」

「うむ。誰もが結婚しなくなり、子供も生まれなくなって、一時は我が国もどうなるかと思ったが、これで安泰だね」

「政府が専門家を集めて作った法律、あれが功を奏しましたね」

「全くだ。配偶者最適化法、我々の間では『ロミオとジュリエット法』と呼んでいるが、これほど上手くいくとはね。学者達も予想していなかっただろうね。ハハ」

「あの法律、巷では『赤い糸』と云われているらしいですよ」

「そうなのか、確かに見給え。今成立したカップル達を。まるで運命の赤い糸で結ばれているようじゃないか」

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赤い糸 さとけん @satok

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