第7話 106号室
まただ。またというか今日もだ。
ここ最近帰宅すると必ず部屋のドアノブにオレンジの紙袋がかかっている。
紙袋の色は毎回変わり、中身も香水やハンドタオルなど様々だ。しかし必ず入っているメモ書きはいつも「これで今日も頑張って下さい」と書かれてある。
勿論誰の仕業か解らず最初のうちは気味が悪かったが、実際に被害があるわけではないので単に処分するだけに留めている。
変質者かただのいたずらのどちらかだとは思うが、どちらにせよ当人が現れれば然るべき処置はとるつもりだ。
今日は珍しく朝帰りで紙袋のことを忘れていたが、鮮やかなオレンジが太陽に照らされ微かに風に揺られているのを見てため息をついた。
部屋に上がり、欠伸を噛みこらえながら中身を確認すると、小さなイルカのぬいぐるみだった。
毎度思うことだが、これらは一体何なんだ。やはり嫌がらせとしか思えない。もし危険なストーカーなんだとしたらもっと恐ろしいものを置いていくはずだ。全く。実につまらない嫌がらせだ。
ため息に怒りが混ざり始め、いつからこれが始まったかと思い返しおもむろにテレビをつける。
今日は休みだし、いつもは見ることのない番組でも見るかとザッピングしていると、騒がしいBGMと共に星座占いの文字が飛び込んできた。
自分の星座である蠍座は4位らしく、甲高い声のナレーションが今日のラッキーアイテムはお揃いのマグカップと唱う。
まさか毎日のラッキーアイテムじゃないだろうなと考えたがそんな馬鹿げた話はない。そんなこと一体どこの誰がするというんだ。
ひとり首を振りながらトイレに立った時だった。
ゴトン、という固いものがドアにあたる音がして咄嗟に立ち止まる。
いや、そんなはずはない。仮にそうだったとしてもこんな短時間で用意出来るはずかない。
こんなすぐに、一体誰が。
息を潜めながらドアの方に近づき、ドアノブに手をかけたとき笑むような女の声が聞こえた。
「マグカップ、用意しておいてよかった。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます