第6話 208号室

「お母さん、ごめんなさい。」

耳障りな声がこちらに向かって投げかけられた。

向かいに正座する娘の眉は申し訳なさそうに下がり、さらに私の苛立ちを助長させる。

目の前には彼女が受けた期末試験の答案用紙がしわくちゃのまま置かれており、先程手渡された時怒りに任せて握り潰してしまったことを思い返す。

九十八点。それが彼女の出した結果だ。

どうしてあと二点が取れないのか甚だ不可解だった。

医大卒の夫と難関私立大学を卒業した私の血を受け継ぎ、小学生の頃から塾に通い文字通りの英才教育を受けているにも関わらず、何故満点と取ることが出来ないのか。

無論、彼女の努力を貶すつもりは毛頭ない。ただ毎日塾で勉強をし、家に帰り夕飯を食べた後もみっちり勉強していても、それが結果に繋がらなければ意味がないのだ。

「お母さん、」

ただ彼女は今にも消えてしまいそうなか細い声で私を呼ぶ。

今まで試験で何回も満点を逃してきた。彼女の努力が報われないことに、彼女以上に腹が立って仕方ない。

私は満点以外許されなかったというのに。私が娘を甘やかしすぎた結果なのだろうか。

過去の記憶が脳裏を過る。幾度となく叩かれた左頬が、あの日の苦痛を呼び起こす。

「今度は絶対百点取るから。」

「今度っていつ。」

語尾を奪うようにして鋭い言葉を放つと、娘は大きく肩を揺らし、唇から漏れそうになる嗚咽をかみ殺した。

何回この言葉を彼女の口から聞いただろう。いい加減聞き飽きた。

「お母さん、お母さん。」

耳障りだ。帰宅した夫にこのことを報告すれば、私の教育が行き届いていないせいだとまた説教される。

「お母さん、あのね、」

「うるさい。」

言い訳なんて聞きたくない。

込み上げた怒りを一気に放つようにして、思い切り右手を振り上げた。

その瞬間の娘の顔が、嫌な程にあの頃の私に似ていた。

「お母さ、」

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