第2話 501号室

昨日の夕飯の残りでいいか、とスーパーに立ち寄る足を止めた。

ぱっと昨日何を作ったか思い出せなかったが、それは帰ってから冷蔵庫の中を覗けば解る話なので考えないことにした。

踵を返し、帰路を急ぐ。

そういえばもうそろそろ観たい番組が始まる時間だ。

前々から観たくて放送日をカレンダーに書き込んでおいたから覚えている。それが今日だ。

でも、それがどんな内容かは思い出せない。きっとカレンダーに番組名も書いてあるはずだから、これも思い出そうとしなくていい。

確かめれば済むことはいちいち思い出さないことにしている。

頭も体も無駄に使いたくないのだ。

今確かめるべきは冷蔵庫とカレンダーだ。

長い螺旋階段を上がる。音が響きやすいここを通るのは嫌ではあったが、自室への近道なので仕方なく通る。

階段を上がりきり、通路を真っ直ぐ進む。

この通路の突き当りが私の家だ。

鞄から鍵を取り出し、鍵穴へと挿す。

西日が強く当たる玄関を開け放ち、サンダルを脱ぎ捨てる。

思っている以上にお腹が空いていたのか、私は足早に冷蔵庫の前へと直行した。

ひんやりとした空気を纏う白い扉を開ける。

あれ。

昨日の夕飯はおろか、中には紙パックの牛乳一本しか入っていなかった。

そうか。今日の為に残そうとしていたけれど、結局全部食べてしまったのだった。

午後から書店に行っていたのだが、また出掛けなおさなければいけなくなったなと苦笑した。

そうだ。観たい番組があったのだった。

すっと立ち上がり壁掛けのカレンダーを見遣る。

今日の欄を見た私はあっけに取られた。

そこには何も書かれてはいなかった。

空白しかないカレンダーを一瞥して、私は納得した。

「そうか。観たい番組なんてなかった。」

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