ダンジョン歴10日目Ⅲ
今、息を潜めながらこの日記を書いている。何が起こったか、一刻も早く整理する必要がある。
そもそも、俺は根本的にとてつもない勘違いをしていた。それは、『獣除け』についてだ。『獣除け』は動物を近寄れなくする呪術で、動物に近いモンスターにもある程度効く。
だが、この階層に居るモンスターは、俺が呑まれたのを含め、ほとんどが植物に近い。ひどく当たり前のことだが……『植物モンスターは、獣じゃない』。
何が言いたいかというと、獣除けが効かない可能性がある。このとてつもない勘違いに俺が気付いたのは、キャンプの近くで、ガサゴソと何か音がした時だった。
また綻びたところからダンジョン生物が近寄って来たのかと思い、魔力光で照らしてみたが……其処にあったのは、のたうちながら動き回る木の根の塊だった。
動いている実物は初めて見たが、多分モグラの間で『アルキタイボク』と呼ばれている植物系モンスターの一種だと思う。確か前にダンジョン巡りに同行した学者様が
兎に角、そういう植物型のモンスターは、光のあるうちは地面に根を張ってじっとしているが、暗くなると日当たりのいい場所を求めてゆっくり移動する性質があるという。動きは鈍いが、図体が大きい。根の面積が広く、モンスターというよりは、殆ど地形に近い。うっかり移動中に足を踏み込めば、反応した根に絡め取られて身動きが取れなくなり……そのまま養分にされる。
耳を澄ますと、森の奥から、ベキベキ、ブチブチという何かが千切れるような音と、時折つんざくような獣の鳴き声が上がる。多分、移動に巻き込まれたモンスターやダンジョン生物の断末魔なのだろう。
なるべくなら自分で味わうのはご遠慮願いたい結末だ。
肝心なのは何か対策が無いか、ということだが、不幸にして思い出せない。多分、物音や光に反応すると読んで明かりを消し、息を潜めているが……どこまで効果があるか疑問だ。
移動速度からして、全力で走れば逃げるのは容易だろう。だが、こう暗いと何方に逃げればいいのかわからない。『アルキタイボク』が一体だけかも分からない。もしかすると、この森全体がそうなのかもしれないと、嫌な想像が膨らむ。
いっそのこと火を点けながら全力で走れば逃げられるかとも考えたが、他のモンスターがどうなるか読めない上に、このキャンプを捨てることになる。あくまで、最後の手段だ。
今できるのは、僅かな動きに目を凝らしながら、息を潜めて待つことだけだ。早くこのダンジョンの夜が明けることを願う。
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