ダンジョン歴10日目

 はらが いたい。

 すきっ腹に固形物を入れたせいか、それとも大量に食べると悪さをするのか、猛烈な腹痛が俺を襲っている。動けるようになるまでの間、日記を書いて必死に気を紛らわすことにする。

 少し汚い話だが、深層ダンジョンでとても問題になるのが排泄物の処理だ。幸いにして、俺が居る階層はかなり広くて土が柔らかい上に、草も生えている。だから、今のところは単純に、掘って用を足して埋めれば済む。

 しかし、もし普通の広さの岩作りのダンジョンで、皆が好き勝手に用を足したらどうなるか?待っているのは破滅だ。いや、これは本当に、冗談抜きの話だ。

 人間の出すモノというやつは、放っておくと腐って瘴気が出る。地上だと問題無いが閉じたダンジョンの中だと、それが閉じた場所に溜まっていくんだ。モンスターの死骸なんかでも似たようなことが起こらないわけじゃないが、どうもダンジョンの環境制御魔法というやつは、『外から持ち込まれた物』にはとりわけ弱いらしい。

 だから、もし誰かがダンジョンの中の適当な部屋で用を足し、そのまま放置することを繰り返しでもしたら。あっというまに、殺人トラップの出来上がりだ。

 まぁ、これだけが理由というわけじゃないが、そういう瘴気溜まりに迂闊に踏み込めば窒息して意識を失うこともあるし、下手に火を点ければ爆発しかねない。傷口から入り込めばそこから腐ることもあるし、穴の底に空気があるか確かめようとして松明を投げ入れた慌て者の末路を聞いたのは、二度や三度じゃ効かない。

 

 ……じゃあ、モグラはどうしてるのかって?

 一番いいのは、ダンジョンで出さないことだ。付け加えるなら、そういう瞬間はどうしてもスキになる。納得できないなら、武装した仲間に周りを囲まれながら用を足す情けなさを想像してみるといい。

 次によく使うのは、魔法だ。自分のクソに浄化魔法をかけるのは、どう格好をつけても様にはなるまいが、居場所を気取られるよりはずっとマシだ。

 最後は、埋めるか持ち帰るかすることだ。まぁ、モグラと言っても色々だから、勿論ケツを拭かずにそのまま放っておいて、モンスターに襲われるような間抜けもたくさんいる。

 だから、ここで書いたのは「きちんとした奴ら」がやってることだと思ってくれればいい。つまりは、王様の招集でこの深層ダンジョンに潜るような腕っこきなんかのことだ。短い付き合いだったが、一緒に行動してると色々と学べることもあった。モグラというのは秘密主義なところもあるからな。思えば、貴重な機会だったのかもしれない。

 こんな時にそういう奴らのことを思い出すのは、文字通りの臭い仲ってやつなんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る