ダンジョン歴9日目

 今朝は、久々に顔を洗った。水が確保できたから、この程度の贅沢は許されると思いたい。とてもさっぱりした。

 深層ダンジョンの『日の出』に合わせて9日目と書いたが、そろそろ外との時差が溜まる頃だ。地面の上ではまだ8日目の真夜中だろう。あの貴族殿の持っていた機械式時計があれば正確にわかるかもしれないが、わかったところでどうしようもないし、そんな高級品にはそもそも縁がない。

 そうそう、さっきキャンプの点検をしたとき、久々に動く生き物を見かけた。得体の知れない植物モンスターじゃなく、ダンジョン生物だ。すぐ逃げていったのでチラっとしか見えなかったが、狐か兎に似ていたと思う。書くまでもないことだが、モンスターとダンジョン生物の違いは、人間に危害を加えるかどうかだ。本当に書くまでもなかった。紙の無駄だ。

 どうでもいいことまで文章にしてしまうのが俺の悪い癖だが、このところ重症になっている気がする。多分、話し相手が居ないせいだ。人恋しくなる方ではないと思っていたが、状況が状況だけに仕方ない。日記で紛らわすのが一番だろう。

 ああ、酒場の喧噪と麦酒エールが恋しい。


 ちなみに、キャンプの周りで動物を見かけたというのは、悪い報せだ。頼みの綱の『獣除け』が十分に働いていないことを示すからだ。内側まで入り込まなかったなら完全に効かないわけではないだろうが、このキャンプ地を使えるのは長い期間ではないかもしれない。予定を変更する必要がある。

 まぁ、今日は食料を調達するので、俺はその前に死ぬ羽目になるかもしれないが。具体的に何をするのかは、上手く行ったら書くことにする。

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