ダンジョン歴7日目Ⅲ
キャンプ地には辿り着いたが、何も残っていなかった。大丈夫、想定内だ。ダンジョンの中には、ダンジョンの生き物が居る。外から入ってきた俺達は異物で、モグラはそれをよく知っている。だからダンジョンの中には、道案内の印を除いては、なるべく痕跡を残さないようにする。
火は始末して燃え滓を埋め、寝ころんだ土も一度掘り返して匂いを消す。食い物は決して残さない。そうしないと、知能の高いモンスターに地上まで追いかけられる羽目になることがあるからだ。
だが、キャンプに辿り着いて良かったこともある。ここは少なくとも、安全だと判断された場所だ、ということだ。もうすぐダンジョンに夜が来る。ダンジョンに無知な人間は、地下には日の光は届かない、と思うかもしれないが。巨大なダンジョンの一部には、しばしば魔力光で太陽のような明かりが設置されていることがあるのだ。
少なくともこの階層には魔力光の照明が灯り、どうやらそれが植物モンスターを呼んでいるらしい。地上とは少しずれているが夜もある。このダンジョンの一日は地上よりも少し短い、と。行きの時、目付け役の貴族がこぼしていた。
さて、ここで問題なのは、火を起こすべきかどうかだ。獣は普通、火を恐れる。だが、ダンジョン住まいのモンスターの中には、火を恐れないどころか、それを目印に獲物を狩るヤツまでいるのだ。特に、このダンジョンの低層にも住んでいたコボルト。あいつらも、火を恐れないモンスターの一例だ。
複数人で潜っている時なら、火は必要だ。万一モンスターが寄ってきても、戦える。火を中心に円陣を組み、集合の目印にする。明かりのおかげで同士討ちもしづらくなる。だが、一人きりなら戦うのは愚かな選択だ。仮に戦うとしても、光は無くてもいい。むしろ闇に紛れて逃げる方が、勝率が高いこともある。
少し考えた後、俺は少しの間魔力光を灯して日記の続きを書くことにした。
そうそう、よく勘違いされることだが、俺達モグラにとって、魔法は必須科目だ。中には、『魔法が使えるかどうか』がモグラと盗賊の違いだ、なんて言うヤツもいるくらいだが、聞き流していい。
といっても、だいたいは魔力光や治癒、解毒みたいな地味な魔法だ。空気や水を浄化する魔法も重宝する(ああ、浄水魔法を覚えていれば、その辺の水が飲めたのに!)。攻撃魔法のように派手でないぶん、そういった魔法は
だいいち、教わる方法からして、はぐれ魔導士に高い金を積んだり、モグラ同士で教えあったりしているものだから、多分術式もかなり元と違うものになっていると思う。それでも、魔法は便利だ。なにせ装備も道具も一切合切なくても、体一つで使える技術だからだ。まさに、今の俺のような状況だ。
魔力光を頼りに草を集めてベッドにしたが、寝心地はなかなかいい。明日は、食べられるものを探して、それから次にどうするか決めよう。
おやすみ。
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